地力あるアルビレックス新潟が陥った誤算 忘れてはいない2年前の逆襲をもう一度

浅妻信

スタジアムに漂うもどかしさと悲壮感

昨季の主力に元セレソンのコルテースを加え、満を持して今季に臨んだ新潟だったが、シーズン折り返し時点で下位に低迷している 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 アルビレックス新潟サポーターの間で、今でも話題にのぼるシーズンがある。それも、決してセピア色の思い出ではない。

 2013年、勝ち点わずか20に終わった前半戦の戦いから後半は一変。前からの攻撃的な守備がはまり、鋭いハーフカウンターから川又堅碁がゴールを量産したあのシーズンだ。後半戦に限って言えば首位。つまり、今シーズンのレギュレーションならばステージ優勝である。その“チャンピオン”チームを作り上げたのが現監督の柳下正明。期待された翌シーズンは12位に終わったものの、今季はMFレオ・シルバをはじめとする主力の流出も防ぎ、さらに元ブラジル代表DFコルテースも加入。あの13シーズンをベースとしたチームを進化させ、今年こそ悲願のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場を目指すと、サポーターや地元メディアは色めき立った。

 それから4カ月。ファーストステージを終え、勝ち点わずか14。降格圏の17位に沈んでいるのが現状だ。

 まずファーストステージ、大きな誤算であったのが、けが人の多さであろう。前述のレオ・シルバをはじめ、日本代表経験を持つDFの松原健、U−22日本代表FW鈴木武蔵、さらにエースFWのラファエル・シルバも約1カ月戦列を離れた。

 しかしそれよりも、結果が出ていないチームの宿命とはいえ、ピッチ上のちぐはぐさが目についた。13シーズンの快進撃を支えた前線からの守備ははまらず、どうしてもボールを奪う位置が低くなる。必然、攻撃は遅れ、ブロックを引いた相手になかなか得点は奪えない。それではと、低い位置から相手DFラインの背後を狙うも、前線でボールがなかなか収まらず、ぽっかりと空いた中盤をレオ・シルバが走り回される。点を取りたい気持ちだけが空回りし、攻撃は単調なものに偏向していく。柳下監督が就任当時から口を酸っぱくして言い続けている「選手の距離感」は影を潜め、それでも選手個々は頑張って走り、サポーターにもそれが伝わっている分だけ、スタジアム全体にもどかしさと悲壮感が漂った。

結果が出ないことによる負の連鎖

 もっとも、シーズン序盤からその負の連鎖が見えていたわけではなかった。しかし、内容は悪くないものの、個人の単純なミスやセットプレーからの失点で勝ち点を落とす試合が続いた。

「やっていることに間違いはない」。サッカーでしばし使われるコメントだが、それは結果が出たときに裏付けられる言葉であって、結果が出ないとそれはやがて疑心暗鬼に変わる。序盤の戦いがまさにそれであった。第3節の初勝利(柏レイソル戦/3−2)から、途中第9節の松本山雅FC戦の勝利(2−1)を挟み、引き分けの連続が次第に連敗へと変わっていく。特に第12節からの3試合では9失点。最下位に転落した。

 監督就任以来、柳下監督がぶれることなく、言い続けていることがある。「適切な距離感をつかむこと。寄せて裏をとる」「怖がっている選手はミスを恐れてボールをもらいに来ない。そういう選手は見てすぐ分かる」。しかし、ある程度のレベルでサッカーをしていた人には分かるだろうが、この「適切な距離間」というのは簡単そうに見えて非常に難しい。要は判断力なのだが、サッカーのステージが上がれば上がるほど判断のスピードは要求される。そして、この判断力の優劣も、ドリブルの能力同様、行き着くところは個人の特性であり、プロ選手といえども得手不得手があるのは否定できない。

 ただ、柳下監督は指導者として、かつてこうも発言していた。「褒めて伸ばすということは育成年代では必要だけれど、プロの監督としてはそれだけではいけない。厳しいことを要求し続けなくてはならない」。ミスの指摘、叱責。勝ちを拾えているときは、言われる方もそれほど気にはならないだろう。しかし、負けが込むことで自然とプレーが萎縮する一方、その要求も過敏にとらえてしまう。チームの生命線であるアグレッシブさ、躍動感が失われると同時に、できないこともやろうとし、ミスを重ねる。まさに結果が出なかったことによる負の連鎖である。

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著者プロフィール

1968年生まれ。新潟市出身。関西学院大学大学院法学研究科前期課程修了。不動産鑑定士として活躍するかたわら、地元タウン誌ほかにコラムを執筆。また、北信越リーグ所属ASジャミネイロの監督としても活躍中

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