地力あるアルビレックス新潟が陥った誤算 忘れてはいない2年前の逆襲をもう一度

浅妻信

セカンドステージ反撃のキーマン

レギュラーの座を奪いつつある加藤は、チーム初となるナビスコ杯の決勝トーナメント進出に大きく貢献した 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 むろん、元々地力のあるチームである。暗い話題ばかりではない。前述の最下位転落を底として、徐々にではあるがチームは上昇気流に乗り、ヤマザキナビスコカップ(ナビスコ杯)では、チーム史上初の決勝トーナメント進出を果たした。そこでの活躍をものにし、レギュラーの座を奪いつつあるのがチーム在籍5年目のMF加藤大だ。

 元々攻撃センスが高く評価され、期限付き移籍先の愛媛で13シーズンに9ゴールを挙げた得点力を有する一方、本人自ら「セールスポイントは運動量」と言う通り、走力も兼ね備えた期待の選手である。「対人の守備がまだまだです。J2とJ1での差を一番感じるところ」と課題が口をついてくるあたり真面目さがうかがえるが、加藤はその萎縮の典型で、それまでのわずかな出場時間の中では焦りからお世辞にも持ち味を発揮していたとは言えなかった。しかし、出場時間が延びるにつれて本領を発揮。「距離感と常にゴールへのルートを意識している」と語る通り、昨シーズン来の新潟の課題であった、相手守備ブロックに穴を空けることができる創造者として、ナビスコ杯の勝ち上がりはもちろん、第16節の湘南戦の3得点勝利(3−1)に大いに貢献している。柳下監督が要求し続けた壁を乗り越え、プロサッカー選手として一皮むけた感が漂う。

 もう1人、セカンドステージ反撃のキーマンとなるのが、中断期間前にゴールを量産し、これまでチーム2位の6得点(ナビスコ杯を含む)を挙げているFW山崎亮平だ。前所属のジュビロ磐田時代を始め、シーズン当初は途中交代や、途中出場が多かったが、先の加藤同様、このところフル出場が続く。好調の要因について、「やはり、選手としてフル出場できているのが大きい」と語る一方で、「出場時間が伸びるにつれ、周りも自分の特徴を理解し、良いタイミング、良い位置にボールをくれるようになった」と、連携の向上を挙げる。特に、3バックに変更してから、対人能力の強さを発揮し、ゴール前で山崎と絡むことが多くなったコルテースとは、「もっとピッチ内外で話し合い、呼吸を合わせ、武器にしたい」と、セカンドステージ反撃のキーとして挙げる。

脳裏によみがえる逆襲劇

今シーズン終了まで支持すると発表されている柳下監督 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 今更ながらサッカーというのは単純なだけに奥深いスポーツである。そろえた選手の能力の足し算ではなく、かけ算で決まり、またそれが少しずれるだけで、大きくその針はぶれる。今回の新潟のつまずきも、ちょっとしたピッチ上の理解のズレにすぎなかったものが、勝てない期間が続いたことで、だんだん大きなものになっていったのかもしれない。このことからも分かる通り、サッカーはエモーショナル(感情的)なものに左右される。サッカーの原点はボールを奪って攻めることであるのに、不調であればあるほど迷い、迷宮に至る。

 新潟はJリーグの理念を体現しているチームの一つであると思う。限られた予算や人員の中、短期的な視野ではなく、常に中長期的な視野に立ち、選手の獲得等を行っていた。チーム作りの方針にもぶれはなく、それはJ1に昇格してから10数年、一度もJ2に降格していないことでも評価されるだろう。

 先月、クラブは今シーズン終了までの柳下監督支持を既に発表している。「ファーストステージはメンタル的なものも大きかった。仮に1点差で負けていても、うちは最後に走り勝つ自信があるのに」と移籍1年目の山崎が言い切る姿に、キャンプから積み上げてきたもの、自分たちの力への信頼も感じる。

 ファーストステージ勝ち点14からの逆襲は決して簡単なものではないだろう。しかし、新潟の選手、サポーターはわずか2年前に起こした痛快としか言いようのない快進撃を覚えている。それは、セピア色の思い出ではなく、誰の脳裏にも鮮やかによみがえる最上級のドキュメンタリー映画なのだ。

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著者プロフィール

1968年生まれ。新潟市出身。関西学院大学大学院法学研究科前期課程修了。不動産鑑定士として活躍するかたわら、地元タウン誌ほかにコラムを執筆。また、北信越リーグ所属ASジャミネイロの監督としても活躍中

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