錦織圭×ツォンガの勝負を分けた1球 『ベイビーステップ』エーちゃんの分析
「魔物」がすむ全仏のクレーコート
いつも通りノートに細かく分析するエーちゃん 【(C)『ベイビーステップ』勝木光/講談社】
試合を分析するにあたり、全仏オープン特有のレッドクレーというコートの特性を知る必要があります。「赤い魔物がすむ」と言われるこのコートは、上位シードが敗れる大番狂わせが多いことで有名です。その理由は、他のコートとバウンドの質が違うこと(球足がハードコートより遅いが、クレーの中では速い)、気まぐれな天候、独特の雰囲気などさまざま言われています。中でもメインコートのフィリップシャトリエは、戦う者同士の力の差を埋め、最後には挑戦者を勝たせてしまう「魔物」がすんでいると言われているのです。
試合開始前からシード上位の錦織選手にとって、ここに「魔物」が待ち構えているのは目に見えていました。地元フランスのジョー・ウィルフリード・ツォンガ選手(フランス)は、観衆のほとんどを味方にできるだけでなく、フィリップシャトリエでの試合経験の多さがアドバンテージ。直前の4回戦も第4シードのトマシュ・ベルディヒ選手(チェコ)をここで倒し、良いイメージで試合に入れるのは間違いありませんでした。さらにツォンガ選手は、この時点で、フランス勢の大躍進が話題となった今大会のたった一人の生き残り。つまり、もしここで過去の対戦成績1勝4敗と分が悪い錦織選手に敗れたとしても、全仏オープンを最後まで果敢に戦い抜いた挑戦者として、大観衆に健闘をたたえられることは間違いありません。地元の期待がプレッシャーとして重くのしかかるより、むしろ最高に心地いい応援に後押しされる状況が、始めからでき上がっていたのです。
試合の分岐点は集中力の低下とともに訪れた…
図1.勝負を分けた第5セットの一球 【(C)『ベイビーステップ』勝木光/講談社】
錦織選手は第1、第2セットとツォンガ選手に取られたものの、会場内の落下物により中断などで気持ちを整理し完全に息を吹き返します。そして、圧巻の攻撃力で第3、第4セットを連取。試合は最終セットまでもつれました。
第2セット終盤から第4セットにかけて、ツォンガ選手は苦手意識からか錦織選手に圧倒され、攻め切れないシーンが続いていました。そして、訪れた分岐点……それまで18回中13回錦織選手が勝負強く跳ね返し、19度目に握られたブレークポイントは、錦織選手のミスから得た千載一遇のブレークポイントで、しかも錦織選手のセカンドサーブ。この時のツォンガ選手には「もうここしかない」というオーラが漂っていました。
思い切った深いリターン。それに1.錦織選手の返しが浅くなったところで勇気を振り絞り、2.得意の回り込んでのフォア強打。3.この球に錦織選手のクロスボールはコントロールを失いました(図1を参照)。そしてこのブレークが決め手となり、最終的にはスコア1−6、4−6、6−4、6−3、3−6のフルセットで錦織選手は敗退しました。
「ローランギャロスの魔物」を見た歴史的な試合
【(C)『ベイビーステップ』勝木光/講談社】
そういう意味でこの試合は、全仏ベスト8という未知の世界を舞台に、現代テニスにおける「ローランギャロスの魔物」を日本人が日本人の目を通して初めて見た、歴史的な試合だったと言えるかもしれません。そして錦織選手が、いつかその魔物を倒す勇者となり得ることを予感させてくれる、素晴らしい戦いだったと思います。
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