国枝、上地 新技術の習得でさらに強く――過酷な全仏のクレーは「まるで生き物」

荒木美晴/MA SPORTS

対応が難しい全仏のサーフェス

車いすテニス界の“絶対王者”国枝。サーブの質向上に取り組み、今年の全仏でも優勝の本命に挙げられる 【吉村もと/MA SPORTS】

 フランス・パリのローランギャロスで開催されている全仏オープンテニス。錦織圭(日清食品)が全仏では自身初の8強入りを決め、盛り上がりを見せている。そんな中、もうひとつのクレーの戦い「車いすの部」が3日から始まる。日本からは男子の国枝慎吾(ユニクロ)、女子の上地結衣(エイベックス・グループ・ホールディングス)が出場する。

 車いすの部も一般と同じく、全豪オープン、全仏オープン、ウィンブルドン、全豪オープンが世界の4大大会と位置づけられる(ウィンブルドンはダブルスのみの開催)。予選はなく、世界ランキングのトップ7とワイルドカード1枠の8名のみが参加できる。

 クレーコートは、車いすの場合は直線にこぐときは重く、ターンするときは車いすごと横滑りする特徴がある。また、動けば動くほどコートにわだちが刻まれ、そこに自分のタイヤがはまってしまうこともあるなど、対応が難しいサーフェスだ。プレー面では、高い打点でボールをさばくパワーとラケットワーク、そしてコートを広く使う巧みなチェアワーク、ロングラリーにも耐えうる強いフィジカルが求められる。4大大会のなかでもタフな試合になることで知られる全仏は、車いすテニスプレーヤーにとって、もっとも過酷な大会なのである。

 そんな、「まるで生き物のよう」とも表現される全仏のクレーコートを昨年制したのが、日本の国枝と上地だ。現在、ともに世界ランキング1位。今大会も堂々第1シードに名を連ね、国枝は2年連続6度目の優勝を、上地は単複2連覇を狙う。

常に高みを目指す国枝の強さの秘けつ

 昨年は自身4度目となる「年間グランドスラム」を達成した国枝。ナンバー1という定位置にあぐらをかくことなく、技術もメンタルもフィジカルも納得いくまで鍛え抜く。常に自分自身との戦いに挑み続けるその努力こそが、“王者”たるゆえんだ。今年は1月の全豪を制し、3年連続8度目の優勝を達成するなど好発進している。結果だけ見れば、死角はないように思えるが、本人は「自分はパーフェクトな選手じゃないし、課題があると思って練習している」と冷静に前を見つめている。

(映像提供:MA SPORTS)

サーブ改良、盤石の体勢でクレーに臨む

 そんな国枝のライバルと目されるのが、クレー巧者で世界ランキング2位のステファン・ウデ(フランス)と、同4位のグスタボ・フェルナンデス(アルゼンチン)だろう。ウデは2012年と13年の覇者で、昨年の国枝との決勝でも車いすの高さを生かしたパワーテニスを見せつけた。また、21歳のフェルナンデスは昨年の準決勝で国枝とフルセットの死闘を繰り広げた若手成長株の1人。「打倒・クニエダ」を胸に試合に挑んでくるライバルたちとの駆け引きは、今大会の見どころのひとつとなるだろう。

 国枝はさらなる高みを目指して、丸山弘道コーチと取り組んでいることがある。それがサーブの改良だ。もともとコントロールは抜群で、エースの数も多いのだが、スピードだけを見ると速い選手が他にもいる。“パワーテニス時代”と言われる男子では、特にサーブが重視される傾向にあることから、2月のキャンプから強化を始めた。筋力をつけて速さを出すというより、サーブの一連の流れを見直して、ラケットワークを含めて動作のロスをなくしてスピードアップにつなげるというもの。実戦としては5月のジャパンオープンで試し、手ごたえを感じた。

「緩急をつけてコントロールするというプレースタイルは変わらない。そのなかでサーブのバリエーションを増やし、“こういうのもあるぞ”と相手を惑わすのが大事だと思っています。全仏でも重要な局面で使っていければ」

 王者の新たな挑戦から目が離せない。

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著者プロフィール

1998年の長野パラリンピック観戦を機に、パラスポーツの取材を開始。より多くの人に魅力を伝えるべく、国内外の大会に足を運び、スポーツ雑誌やWebサイトに寄稿している。パラリンピックはシドニー大会から東京大会まで、夏季・冬季をあわせて11大会を取材。パラスポーツの報道を専門に行う一般社団法人MA SPORTSの代表を務める。

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