戦力充実の東海大、「帝京超え」を狙う 大学ラグビー界に変化を起こせるか?

向風見也

木村監督が信頼を寄せる藤田主将

東海大で主将を務める藤田(左)は、関東学生代表として戦ったニュージーランド学生代表戦でも活躍した 【赤坂直人】

 留学生、若き勝負師、点取り屋、恐るべき組み手……。多士済々の面子を引っ張るのが、満場一致で主将となった藤田である。青森北高出身。真っ直ぐな笑顔で、真っ直ぐな将来像を語る。

「もし、自分が活躍できたら……。この先、ほかの小さな選手にも勇気を与えられるかな、と」

 フランカーとしては決して大柄ではない175センチ、95キロのサイズながら、地面の周りでの粘りと激しさを貫く。ハーフタイムの情報交換の際は下級生の頃から率先して発言し、学年間のリーダーとして丁寧な寮生活を心がけてきた。一字一句、正確かはさておき、かつての雑談の延長でこう言っていたものだ。

「スクラムとかブレイクダウン(密集戦)とかで、ほんの数センチの差のところで勝負しているのに、普段の生活がだらけてしまうのはちょっと…」

 木村監督は、4強入りに止まった前年度を「やり切ることをやり切れなかった」と反省しつつ、藤田主将に「理屈じゃなく、やり切る。その点ではナンバーワン」と信頼を寄せるのである。

春の対戦では帝京大に完敗

東海大(青)は昨季の大学選手権準決勝で筑波大に終了直前に逆転され、敗れた 【写真は共同】

 頂点を目指すにあたり、ベンチマークとなる試合があった。5月24日、うだる暑さの帝京大グラウンド。関東大学春季大会グループAの帝京大戦である。

 関東大学対抗戦Aに登録される王者とは、秋の対戦はない。リーグ戦の東海大にとってこの日は、王者との相対関係を知るチャンスだった。

 結果は、完敗だった。19対59。

 序盤、身体のぶつかり合いでは互角だった。前半20分間のスコアは7対7と競っていた。しかし、石井曰く「レフリングへの対応」がうまくいかず、接点周辺での反則を重ねた。

 一時退場処分を受け14人でプレーしていた前半の終盤に、19失点を喫する。後半初頭は、もともと頑張れていた1対1でも気おされた。

 藤田主将は、敗因を細部に求めたものだ。

「(密集で)敵をはがす。そうすることで相手の人数を減らせる。帝京さんはそこをやってきて、僕らはやろうとは言っていたのに行動としてはできなかった。一番大事な小さい仕事。それが大きな差につながったかな、と」

 この午後、東海大は20歳以下代表勢を欠いていたものの、帝京大も岩出監督によれば「(レギュラーが)決まっているのは4人だけ」。ここで現れたのが「小さい仕事が大きな差につながっている」という課題だった。

木村監督「腹のくくり方が、まだまだ」

 目標への道のりは長く険しい。

 ただ、諦めない。

 ほぼ勝負がついていた終盤だ。帝京大の規則性ある攻めに、東海大がへばりつく。自陣22メートルライン付近左で、相手のパスはタッチラインの外へ飛んでいった。粘り勝ち。

 間もなく、ハーフウェーライン付近右で自軍スクラムを得る。交代出場の右プロップ渡邉隆之(3年)がじりじりと押し込み、ボールは一気に左へ連なる。最後はエースのウイング石井が、一本道を駆け抜けた。後半26分、7対47のスコアが12対47になった。続く34分にも加点したことを鑑み、木村監督は言った。

「諦めなかったという部分は、ちょっとずつ、良くなっているかなと。ただ、笛が鳴ってから笛が鳴るまでという観点で言えば、帝京さんのほうが諦めている選手が少なかった。余計なものを捨てて没頭できるって、大事じゃないですか。そこの腹のくくり方が、まだまだ」

 帝京大とは練習試合を7月末にも組んだ。「毎週やってもいいですよ。それくらいの覚悟がなきゃ」。指揮官は元サンリオの営業マンで、岩出監督の日体大時代の後輩でもある。端正な顔つき。49歳にして、細身で筋肉質な上半身を保っている。

 夕刻。ノーサイドの時を迎え、Bチーム同士の練習ゲームも終わると、東海大の部員がゴールライン上に一直線に並ぶ。グラウンド上のごみを拾い集めるためだ。

 東海大ラグビー部。汗にまみれても爽やかに香る。

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著者プロフィール

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。

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