戦力充実の東海大、「帝京超え」を狙う 大学ラグビー界に変化を起こせるか?
木村監督が信頼を寄せる藤田主将
東海大で主将を務める藤田(左)は、関東学生代表として戦ったニュージーランド学生代表戦でも活躍した 【赤坂直人】
「もし、自分が活躍できたら……。この先、ほかの小さな選手にも勇気を与えられるかな、と」
フランカーとしては決して大柄ではない175センチ、95キロのサイズながら、地面の周りでの粘りと激しさを貫く。ハーフタイムの情報交換の際は下級生の頃から率先して発言し、学年間のリーダーとして丁寧な寮生活を心がけてきた。一字一句、正確かはさておき、かつての雑談の延長でこう言っていたものだ。
「スクラムとかブレイクダウン(密集戦)とかで、ほんの数センチの差のところで勝負しているのに、普段の生活がだらけてしまうのはちょっと…」
木村監督は、4強入りに止まった前年度を「やり切ることをやり切れなかった」と反省しつつ、藤田主将に「理屈じゃなく、やり切る。その点ではナンバーワン」と信頼を寄せるのである。
春の対戦では帝京大に完敗
東海大(青)は昨季の大学選手権準決勝で筑波大に終了直前に逆転され、敗れた 【写真は共同】
関東大学対抗戦Aに登録される王者とは、秋の対戦はない。リーグ戦の東海大にとってこの日は、王者との相対関係を知るチャンスだった。
結果は、完敗だった。19対59。
序盤、身体のぶつかり合いでは互角だった。前半20分間のスコアは7対7と競っていた。しかし、石井曰く「レフリングへの対応」がうまくいかず、接点周辺での反則を重ねた。
一時退場処分を受け14人でプレーしていた前半の終盤に、19失点を喫する。後半初頭は、もともと頑張れていた1対1でも気おされた。
藤田主将は、敗因を細部に求めたものだ。
「(密集で)敵をはがす。そうすることで相手の人数を減らせる。帝京さんはそこをやってきて、僕らはやろうとは言っていたのに行動としてはできなかった。一番大事な小さい仕事。それが大きな差につながったかな、と」
この午後、東海大は20歳以下代表勢を欠いていたものの、帝京大も岩出監督によれば「(レギュラーが)決まっているのは4人だけ」。ここで現れたのが「小さい仕事が大きな差につながっている」という課題だった。
木村監督「腹のくくり方が、まだまだ」
ただ、諦めない。
ほぼ勝負がついていた終盤だ。帝京大の規則性ある攻めに、東海大がへばりつく。自陣22メートルライン付近左で、相手のパスはタッチラインの外へ飛んでいった。粘り勝ち。
間もなく、ハーフウェーライン付近右で自軍スクラムを得る。交代出場の右プロップ渡邉隆之(3年)がじりじりと押し込み、ボールは一気に左へ連なる。最後はエースのウイング石井が、一本道を駆け抜けた。後半26分、7対47のスコアが12対47になった。続く34分にも加点したことを鑑み、木村監督は言った。
「諦めなかったという部分は、ちょっとずつ、良くなっているかなと。ただ、笛が鳴ってから笛が鳴るまでという観点で言えば、帝京さんのほうが諦めている選手が少なかった。余計なものを捨てて没頭できるって、大事じゃないですか。そこの腹のくくり方が、まだまだ」
帝京大とは練習試合を7月末にも組んだ。「毎週やってもいいですよ。それくらいの覚悟がなきゃ」。指揮官は元サンリオの営業マンで、岩出監督の日体大時代の後輩でもある。端正な顔つき。49歳にして、細身で筋肉質な上半身を保っている。
夕刻。ノーサイドの時を迎え、Bチーム同士の練習ゲームも終わると、東海大の部員がゴールライン上に一直線に並ぶ。グラウンド上のごみを拾い集めるためだ。
東海大ラグビー部。汗にまみれても爽やかに香る。