捕まったら終わり、体力の限り逃走せよ! 世界と走る「Wings for Life World Run」

中尾義理

最後は笑顔で捕まろう!

【中尾義理】

カープ女子も参戦! 【中尾義理】

【中尾義理】

 スタートエリアに1983人が整列し、迎えた午後8時、全世界で号砲が鳴った(はずだ)。キャッチャーカーは1時間ごとに時速を15キロ、16キロ、17キロと上げていき、ランナーに襲いかかる。3時間後、時速は20キロに。1キロ3分ちょうどのペースだから、フルマラソンに換算すると2時間6分台。用意された100キロのコースを走り抜くには、100キロの世界記録より43分以上も速い5時間30分で走らなければならない。

仮装で出場し、大会を盛り上げたものまねタレントのキンタロー。さん 【Wings for Life World Run】

 ちなみに筆者は、スタートからしばらく夜の地上にできたヘッドライトの天の川を眺めながら、ゆるめのペース。5キロを25分30秒で通過したから、貯金は6キロ弱。「ヤツが追いかけてくる!」と思うと、ペースが上がり、次の5キロは21分39秒、さらに次の5キロは22分05秒と快調に逃げた。

 目標はハーフマラソンの21.0975キロ越えだったが、幸運にもそれをクリア。ならば25キロまで行こう。目標の上方修正は自分を褒めたい気分にさせてくれたが、直後から脚が痛み始めた。ここでいいやとあきらめてしまえばゴールは早く訪れる。それでいいのか、Myself!

 しかし、ついにその時は来た。こちらはジタバタと最後の力を振り絞っているというのに、キャッチャーカーはクールに筆者を抜き去った。夜の逃亡劇は約26キロで終わった。「やられちゃったな」「くやしいなあ」「意外と長く走れた」。キャッチャーカーに捕まるとき、周囲のランナーたちは不思議と笑顔になっていた。

世界チャンピオンは日本人

 捕まって会場に送還されると、男女とも上位選手はフルマラソンの距離を越えてまだ走っていた。世界の各会場の映像も入ってくる。日本の女子1位選手が女子の世界チャンピオンに輝いたニュースが流れると、「日本人すごい」「世界一周いいなあ(男女のワールドチャンピオンに贈られる賞)」と歓声と拍手が深夜に飛び交った。

 Wings for Life World Runは何キロ走るとか何時間逃げるとか、自分の目標をクリアしたすべてのランナーが勝者になれる。大会参加費の全額と同額が脊髄損傷治療法の研究・開発支援のために送られるという趣旨に賛同して参加した人も少なくない。

 自動車に追いかけられるという非日常的体験を味わったランナーたち。レース中や帰りのバスの中で、「来年もまたやってほしい」というつぶやきを何度も聞いた。やみつきランナー続出か……。

【Wings for Life World Run】

■大会データ
<参加者>
7万3360名(日本会場:1983名)

<優勝記録>
世界:男子79.9キロ、女子56.33キロ
日本:男子67.68キロ(沖和彦さん)、女子56.33キロ(渡邊裕子さん)

【Wings for Life World Run】

日本人初の世界チャンピオンになった渡邊さんコメント
「まだあまり実感が湧かなくて、夢のようです。今日のレースで自分の力をすごく出し切れたと思います。後ろからゴールが追いかけてくるのは初めてで、自分の限界がゴールということで、初めての感覚でのレースだったのですが、とても楽しく走れました。来年の会場はこれからゆっくり決めたいと思います」
男子部門で日本チャンピオンの沖さんコメント
「走行距離は67キロということで、日本チャンピオンになったことに関しては率直にビックリしています。当初の予定が狂い、暴走してしまいましたが、誰も来なかったので後は自分のペースで行くことができました。キャッチャーカーが後ろから追いかけてくるということがプレッシャーだったのですが、開き直っていつ捕まっても良いという気持ちでペースを上げることが反対に良かったのかな」

■Wings for Life World Runとは
Wings for Life World Runは脊髄損傷治療法の発見に取り組む研究に対し資金援助を行う非営利団体Wings for Life 財団をサポートするために行うイベントで、参加費の全額と同額をWings for Life財団に研究助成費として寄付します。アンバサダーのレーシング・ドライバー小林可夢偉選手をはじめ、多くの著名人・アスリートもイベントに賛同し参加していただきました。

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著者プロフィール

愛媛県出身。地方紙記者を4年務めた後、フリー記者。中学から大学まで競技した陸上競技をはじめスポーツ、アウトドア、旅紀行をテーマに取材・執筆する。

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