フットボールの本質を知る男 羽生直剛がFC東京で活躍し続けるすごさ
羽生が有するステルス機能
羽生とともにベテラン組としてチームを引っ張る石川(右)は「潤滑油のようなことができる選手」と表現した 【後藤勝】
羽生のステルス機能は得点にも寄与している。ナビスコ杯初戦の対アルビレックス新潟戦(2−1)、先制を許した東京は石川の豪快な左足シュートで同点に追いついたが、このとき新潟の選手を引き連れ、石川のドリブルを間接的にアシストするスペースをつくったのが羽生だった(編注:関連リンクの動画参照)。
石川は羽生に次のような賛辞を送る。
「周りの選手が気持ちよくプレーできるように、ニュウさん(羽生)が動いてくれる。個人としてもそうだし、チームとしてもよりスムーズにいくための潤滑油のようなことができる選手です。ぼくも年齢とともにそういうプレーをやりながら、と思っていたんですけれども、なかなか難しくてできなかった(苦笑)。それをニュウさんはさらりとやっちゃうところがすごいな、と。それが、ニュウさんがウチ(東京)にい続ける、活躍できる要因だと思います」
指揮官が変われば戦術も変わる。35歳という年齢を迎え、フィジカルの衰えも生じてきているだろう。そのようなさまざまな変化に応じ、最適化しながら、羽生は年齢とともに成長してきた。単純な右肩上がりではない。それが羽生のすごさだろう。
羽生は言う。
「ぶつかったら耐えられるだけの体があるわけではないので、何にしても『考える』ことを一つのテーマにしています。それがぼくの強み。今できることとできないこと、伸ばせることと捨てなければいけないものを考えながら、捨てるものも本当に捨てるわけではなくできるだけ維持しながら、判断していく。ここはもっとうまくなるなと思えることはトライするし、ここは最低限のことはしたいと、測りながらやっている。昔のイメージでぼくを観ている人からしたら『物足りない』『昔はもっとこうだった』と思われるかもしれない。でもぼくは、監督、戦術、年齢……そういうものを合わせて当てはめ、今だからできることを考えながらやっているんです」
シュート力、走る速さ、跳ぶ高さといった分かりやすい能力ではない。何しろ羽生が常日頃、そして試合中に考えていることは「ハードワークしながら、足を引っ張らず、とにかくチーム全体のバランスを整え、個が強い選手たちを結び合わせたい」だ。しかしこれこそが、チームを勝たせる術でもある。
良き道標となる羽生の足跡
個が強いFC東京の選手たちを「結び合わせたい」と話す羽生(前列右から2人目)は、フットボールの本質を理解した貴重な選手だ 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
三田は試合後にこう語っていた。
「1年と半年くらいやってきて、ちょっとずつですけれど、(インサイドハーフを)やれるようになってきていると思う。もっともっとニュウさんがしているようなポジショニングも考えながらやっていければなと思います」
この試合の1週間と少し前、羽生は「この歳で試合ができる幸せを噛み締めながらやっています。自分が出た試合で勝点を取ることは若い選手の刺激になる。まずはチームのために走らないと。監督は“餓え”と言うけれど、勝利に餓えているところ、常に貪欲な姿勢を見せられるようにしたい」と言っていた。三田には、それが伝わっていたようだ。
考える力。学び続ける姿勢。折れない闘争心。走りぬく気持ち。影になりチームをチームたらしめるプレースタイル。フットボールという競技の本質を知りたければ、羽生のプレーを観察するべきだ。足の速さや背の高さに依拠せずとも勝てる証明がそこにある。
羽生が今、心に秘めている目標は、リーグ優勝を果たし、そして一年でも長くプレーすること。その足跡は間違いなく、フットボールを愛する者にとって良き道標となるはずだ。