フットボールの本質を知る男 羽生直剛がFC東京で活躍し続けるすごさ
今季開幕から全6試合に出場
開幕から全6試合に出場している羽生。「状態の良い選手を使っていく」フィッカデンティ監督率いるFC東京において、ピッチに立ち続けることは簡単ではない 【写真:アフロ】
この東京にあって、リーグ戦とカップ戦の別を問わず、開幕以後ここまでの全6試合に出場している選手が2人だけいる。一人はけが知らずの鉄人サイドバック、徳永悠平。もう一人は羽生直剛だ。先発出場3、途中出場3。選手のコンディション管理と戦術対応力にうるさいイタリア人監督の視界から決して消えることがない羽生の能力とは、いったいなんなのだろうか。
今をさかのぼること1年前、故障による低迷から脱しきらないまま、羽生は期限付き移籍先のヴァンフォーレ甲府からFC東京に復帰した。コンディションが低下した状態で戻ってきた羽生は、当初フィッカデンティ監督の視界に1ミリも入っていなかった。序列はベンチ外。
ところが渡邉千真(現ヴィッセル神戸)、森重真人、太田宏介を残して8人を入れ替えたヤマザキナビスコカップの初戦(vs.鹿島アントラーズ戦)に先発、ボールに少し触っては動き直すパス&ゴーを徹底して流動性を生み、チームを活性化させてその年の公式戦初勝利(3−1)に貢献すると、立場は変わった。夏には強力な左足を持つ気鋭の三田啓貴からポジションを奪うかたちで、リーグ戦でもインサイドハーフの先発の座を占めるようになった。
フィッカデンティ監督「常に信頼できる」
フィッカデンティ監督は羽生について「一種の『ギャランティー』、しっかりとやってくれる保証がある」と評価を口にした 【写真:アフロ】
フィニッシュに直接関わる能力であれば、三田は羽生よりも強烈な印象を持っている。事実、昨シーズンは先発を外れる2試合前のJ1第15節対鹿島戦で、三田はその直前の天皇杯に続き公式戦2戦連続となる先制ゴールを奪っている。残念ながら追いつかれて1−1の引き分けとなったが、傍目には十分な活躍のはずだった。それでも指揮官は羽生を選んだ。三田は必死に考えた。なぜ自分は先発で出られないのか? どこが違うのか――。それは見る者にとっても一種のミステリーだ。
フィッカデンティ監督は羽生をこう評価している。
「常に信頼できる選手だ。スタートから出ても、または途中から出ても信頼できる。どういう状況から試合に登場したとしても、彼の存在には一種の『ギャランティー』、しっかりとやってくれる保証がある」
「それは個のプレーに走るのではなく、全体の中で機能することをちゃんとやってくれるということですか?」と尋ねると、フィッカデンティ監督は同意した。
「そのとおり。非常に戦術レベルの高い選手だし、さまざまなポジションでプレーできる。中盤、そしてサイドでも。もちろん、かつての走力はないかもしれないが、どのポジションにおいても安心して見ていられる選手だ」
4月4日のJ1リーグ 1stステージ 第4節、対甲府戦。この試合で長短のパスを操りチャンスメークをする司令塔の役割を果たしていたのは梶山陽平と米本拓司だった。そんな彼らに対して「影の司令塔」のように動いていた人物こそが羽生だ。
後半18分から出場した羽生は、甲府の攻撃を中盤で未然に食い止めた後半36分のシーンに象徴されるように、相手のサッカーを寸断して勢いに乗らせず、自分たちが陣形を整える時間をつくり、優位に立つ時間が続くようにゲームをコントロールしていた。石川直宏のゴールで1−0と先制したあと追加点を奪えず失点が許されない状況で、甲府の反撃意欲を削ぐ役回り。キックオフからハードワークをしてペースを握るだけでなく、途中出場の場合でも、羽生は試合を支配することができる。フィッカデンティ監督の評価を裏付けるプレーだった。