ダル離脱の衝撃、6人ローテは解決策か 後を絶たないMLBのトミー・ジョン手術

杉浦大介

開幕前に消えたダル活躍の夢

オープン戦初登板で右肘を痛めトミー・ジョン手術を受けたダルビッシュ 【写真は共同】

 2015年こそ、レンジャーズのダルビッシュ有がメジャーリーガーとして完全開花することを期待していたファン、関係者は多かったはずだ。28歳の右腕は、いつサイ・ヤング賞を獲得しても不思議はない希有(けう)な才能を秘めている。ところが、開幕前の時点でそんな夢はきれいに霧散した。

 初めてのオープン戦登板で右肘に異常を訴えると、その後のMRI検査で右肘側副じん帯の損傷が発覚。現地時間3月14日(日本時間15日)にはトミー・ジョン手術を受けて、これでダルビッシュが長期に渡って戦列を離れることが確定した。

「しばらくはほとんど何も出来ないですが、焦らずゆっくりリハビリをしていきます」(原文ママ)

 ブログ上でそう報告したダルビッシュは、実際に長い雌伏の日々を余儀なくされる。復帰までに必要な期間は一般的に12〜16カ月。“メジャーでも見ていて最も楽しい投手の1人”と評されるようになっていたエースは、おそらく2016年の夏ごろまでマウンドに立つことはない。

好投手が次々とトミー・ジョン手術を受ける

 ダルビッシュ離脱は衝撃的だった一方で、「またか」という思いが頭をよぎったファンも少なくなかったに違いない。スティーブン・ストラスバーグ(ナショナルズ)、マット・ハービー、ザック・ウィーラー(ともにメッツ)、ホセ・フェルナンデス(マーリンズ)……。過去数年の間にトミー・ジョン手術を受けた各チームのエース級は枚挙にいとまがない。

 手術は避ける方向に進んだものの、昨シーズン中にはヤンキースの田中将大が右肘じん帯の部分断裂を経験したことが大きなニュースになった。肘を痛める投手たちにビッグネームが多く含まれていることから、この問題は近年のMLBのトレンドであり、最大の懸念材料になりつつある。

「私たちは可能な限り、彼を守ってきた。先発機会の合間にはより多くの休みを与え、起用法、球数も安定したものにしてきたのに……」

 当時21歳だったフェルナンデスが昨年5月に離脱した直後、マーリンズのマイク・レッドモンド監督が呆然としていた姿も記憶に新しい。

「ローテーションを守ることの厳しさ」「変化球の投げ過ぎ」などが故障者続出の代表的な要因として挙げられ、近年は多くのチームが過剰なまでに球数、イニングを制限している。ただ、それでもケガ人増加には歯止めがかからない。

一因は速球派投手の増加傾向か

 MLB全体に速球派投手が増加傾向にあることも一因なのだろう。08〜13年までの6年間で、メジャーリーガーの平均球速は90.9マイル(約146キロ)から92マイル(約148キロ)にアップした。100マイル(約161キロ)超えをシーズン合計で20球以上記録した投手の数も、07〜08年は1人ずつだったのが、09年は8人、10年は9人、11年は6人、12年は8人、13年は7人と増えてきている。現代はパワーピッチャーがこれまで以上に重宝される時代であり、おかげで投手の肘に、より一層の負担がかかっているのは事実に違いない。

「肘のケガは精密に発見されるようになった。あるチームのGMは、『10年前であれば田中は痛み止めを受けて投げ続けていただろう。単なる腱炎と発表されていたはずだ』と語っていた。そのGMは古き良き時代を懐かしんでいるわけではない。医学が進歩したことを認めているだけだ」

 ESPN.comのバスター・オルニー記者がそう記していた通り、医療技術向上により、これまで見えなかったものが見えるようになったという説もある。

 医学の発達はトミー・ジョン手術のリスク低下、選手側の抵抗感の減少にもつながる。こういったさまざまな要素が合わさって、近年の肘のケガ頻発、手術を受ける選手の続出は引き起こされているのだろう。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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