初陣で示されたハリルホジッチ監督の意図 新戦力たちは“常連組”を超えられるのか

大島和人

日本はチュニジアに2−0で勝利。ハリルホジッチ新監督の初陣を飾った 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 サッカー日本代表は27日、チュニジア代表との国際親善試合に臨み、2−0で勝利を収めた。前半こそ無得点に終わったものの、後半33分に岡崎慎司が先制ゴールを挙げると、同38分にも本田圭佑が追加点。ヴァイッド・ハリルホジッチ新監督の初陣を快勝で飾った。

 週替わりに一つのテーマを複数の筆者が語り合うサイト『J論』では、この試合で示された新監督の意図に注目する。

意図が明確だったスタメン

持ち味であるスピードを生かし、チャレンジを繰り返した永井(右) 【写真は共同】

 開始3分でハリルホジッチ監督の狙いが分かった。もっと言えばスタメンが発表された段階で、彼の志向するものが分かった。前線の右から左へと並んだのは代表1キャップの永井謙佑、0キャップの川又堅碁、10キャップの武藤嘉紀というフレッシュなトリオ。いずれも縦への勢いを出せるタイプだ。

 彼らの勢いは攻守両面で見て取れた。かなり高い位置から相手との間合いを詰め、真正面からつぶしにいくプレスは新監督の“色”でもあるのだろう。ボールとゴールの線を切ることは守備の原則だが、アプローチスピードの速さ、靴一足分でも近寄ろうという球際の意識に良いインパクトを感じ取れた。単に監督が要求して彼らが実行したというより、元々アグレッシブなプレーを得意とする選手が前線に並んでいた。

 勢いがより強く出たのは攻撃面だ。3人はボールを収め、連動して崩すというタイプではない。その一方で裏、縦への意識が強く、ゴールに直結するパスから“チャレンジ”を繰り返していた。永井、川又、武藤はいずれも前を向いた仕掛けで生きるタイプ。プレーが単発に過ぎるきらいはあったが、前半20分以降からは彼らが何度か惜しい場面を演出した。29分には川又がスルーパスから抜け出してゴールに迫り、43分には武藤が川又をおとりにして惜しいシュートを放った(編注:川又がファウルを取られる)。

 チームとしてみればミスもあったし、組織的にはまだ荒削りだった。とはいえ勇気を持って出ていく姿勢を評価できる前半45分だった。

結果で示したザッケローニ世代

 終わってみれば試合が決まったのは後半で、試合を決めたのは常連組である。後半15分に本田(69キャップ)と香川真司(67キャップ)がピッチに入ると、同27分には岡崎慎司(89キャップ)も登場。代表初出場の宇佐美貴史が見せたプレーも無視するべきものではなかったが、結果的には“いつもの3人”の連係から2点は生まれた。

 後半33分の先制点は香川が相手を引きつけて左サイドにスルーパスを送り、起点となった。本田が悪い体勢から巧みに折り返すと、岡崎はファーからヘッドをたたき込む。同38分の追加点は岡崎が密集から左につなぎ、香川がGKの間合いを外す“くさいボール”を打ち込み、最後は本田が押し込んだものだった。ハリルホジッチ監督の戦術やスタイルうんぬんではなく、3人のクオリティーと、今まで築き上げた連係がゴールを生んだ。「彼らはやっぱり違うよね」という一言で分析を済ませていい試合だったのかもしれない。

 岡崎は前への勢い、裏を取る動きに強みのある選手だ。となればハリルホジッチ新監督の色に染まり易いタイプなのではないだろうか。

 本田と香川は間でプレーし、がむしゃらに前へ向かうというより、タメを作って緩急を制御できるタイプだ。彼らの個性と新監督のサッカーがどう“折り合うか”は、今後の代表を左右するポイントとなるだろう。

 一方で“ザッケローニ世代”が結果を出したことは、後半途中まで見せていた新代表のチャレンジを否定するものではない。後半の展開を見れば、チュニジアに消耗もあっただろう。試合がオープンな展開になれば、その時間に入ったアタッカーが輝くのは必然と言っていい。ハリルホジッチ監督の“色”に言及するなら、まずあれだけ積極的な守備をしつつ無失点で試合を終えたことは評価に値する。攻撃面でも新戦力は前への推進力、スピード感という、今までの日本代表に不足していた要素を見せてくれた。

 今までの代表選手が持っていたクオリティーというベースに、勢いやスピードというプラスアルファをどう加えるか。そこがハリルホジッチ新監督の色付けになるのではないだろうか。

 思うに永井や武藤、宇佐美が“常連”を脅かさなければ、ハリルホジッチ監督の成功はない。チュニジア戦に限れば先輩たちは貫録を見せたが、新顔がそのまま譲っていたら日本サッカーに進歩はない。そういう意味で今日の大分で見て取れた競争はポジティブなものだった。新戦力の台頭と古株の意地で、ハリルホジッチ監督の描く絵がよりカラフルになることを、今は願いたい。
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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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