ホンダの苦悩…熱害と空力のはざまで 問題解決へ、中途エンジニア募集も

田口浩次

空力、コンパクト優先で熱害解消されず

 とはいえ、現時点でホンダのパワーユニットがメルセデスはおろか、フェラーリやルノーにも引き離されているのは事実。ささやかれているのは、「昨年のフェラーリと同じ苦しみを味わっているのではないか」というもの。当初まともにパワーユニットが作動しないなど、昨年のルノーを筆頭に多くのチームが苦しんだ初期トラブルに、ホンダは振り回された。そして開幕戦では熱害からパワーを抑えるしかない状態でレースに挑んだ。これは昨年マシンのエアロダイナミクス(空気力学)を優先し、パワーユニットをコンパクトにすることを選んだフェラーリと同じ苦しみではないかと言われている。

 その最大の要因は、MP4−30をデザインしたのが、元レッドブルの空力開発責任者だったピーター・プロドロモウを中心としたメンバーだということ。彼は06年以前にはマクラーレンに在籍していた復帰組のエンジニアで、マクラーレン時代のエイドリアン・ニューウェイ(現レッドブルのチーフテクニカルオフィサー、F1史上最も優秀なカーデザイナーと評判)と長くコンビを組んでいた。レッドブルが4年連続タイトルを獲得したマシン、RB6からRB9を担当していたのだ。

 つまり、マクラーレンはMP4−30設計にあたって、当然のようにエアロダイナミクスを優先し、その残ったスペースにパワーユニットが収まることをホンダに要求したと考えるのが自然だ。

 そのため、ホンダのパワーユニットを見ると、通常の左右サイドポンツーン(車体両脇部分)内部のラジエーター(冷却装置)に加えて、エンジン上部にもかなり大型のラジエーターを背負った状態となっていて、これはヒートエクスチェンジャーの冷却用ではないかと考えられる。通常、ラジエーターのような重量物は可能な限り低重心の場所に設置することが基本であり、現にウィリアムズやレッドブルも、左右のサイドポンツーン内部にギリギリいっぱいサイズのラジエーター類を設置し、重心バランスを低くする努力をしている。

 しかし、MP4−30の場合は、あまりにもエンジンカバー周辺をコンパクトにまとめたため、一部のラジエーターをエンジン上部に配置するしか手がなかったと考えられる。これは昨年のフェラーリにも見られた兆候で、エンジン上部にいろいろと乗っていた。今年のフェラーリはラジエーター類を大型化し、それらをすべてサイドポンツーン内部に収めてきた。外部から見てもエンジンカバー周辺は昨年のようにスリムではない。つまり、パワーをしっかり引き出すための冷却性能アップを重視したと言える。これからホンダがコンパクトな状態のまま熱害をどうクリアしていくのかは、今後浮上するための大きなポイントになるだろう。

転職サイトで制御系開発エンジニア募集

 そしてもうひとつ注目したいのが、ホンダが中途採用・転職サイトにさくら研究所のスタッフ募集をしていたことだ(現在は求人情報の掲載終了)。募集職種は制御系開発で四輪モータースポーツパワーユニットと記載され、仕事内容もF1レース用マシンのパワーユニットの制御系開発業務となっていた。シーズン開幕前に放送されたテレビ番組内でホンダスタッフが語っていたように、「エンジン本体開発には自信があるが、ハイブリッド技術部分では未知なところがある」というのが、現在ホンダが最も苦しんでいる点だ。これを解消するためには、従来とは違う考え、スキルを持つスタッフを補強していく必要があると判断したのだろう。

 すなわち、ホンダはやっとトップとの差を現実のものと理解し、それを埋めるためのプロセスに入ったと言える。準備期間を考えると、遅すぎるという声もあるが、それはF1から離れていた7年の間に、F1の技術スタンダードが大きく底上げされていたと考えるべきだろう。まずは、ヨーロッパラウンド(5月の第5戦スペインGPから)に入るまでに、どこまで熱害を解消していくことができるのか。ホンダ反撃のため、今は準備を整える段階と言える。

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