“モンゴル帝国”の対抗馬は現れるか? 今春、初土俵を踏んだ注目の新弟子たち

荒井太郎

将来楽しみな若手力士たち

東幕下10枚目でデビューした御嶽海(写真右)。3月場所は6勝1敗と力を発揮した 【写真は共同】

 1月場所に続き大阪で開催された3月場所も15日間満員御礼。同地での「全日大入り」は14年ぶり。“荒れる春場所”と言われるが荒れたのは“主役”以外の横綱、大関陣だった。終わってみれば賜杯はすんなりと白鵬のもとへ。最後まで優勝を争ったのは新三役・照ノ富士。逸ノ城とともに同じモンゴル出身のこの2人の超逸材が“ポスト白鵬”として有力視されている。

 角界における“モンゴル帝国”の牙城はしばらく揺らぎそうもないが、近い将来、その勢力図も塗り変わるかもしれない。十両ではスケールの大きさを感じさせる輝(かがやき)や18歳の阿武咲(おうのしょう)、天性の相撲勘が光る阿炎(あび)ら、将来が楽しみな日本人若手力士が台頭。さらに今年の春場所は実力者から超個性派まで多士済々の顔ぶれが角界の門を叩いた。

名門再建へプロ入りを決めた学生&アマ横綱

 昨年の学生横綱&アマチュア横綱で東洋大4年の大道久司は当初、アマチュア相撲の強豪である和歌山県庁入りが有力視されていたが急転直下、「出羽海部屋の再興に力を貸してほしい」という師匠(元幕内・小城ノ花)の言葉が決め手となり、今年1月にプロ入りを表明。目指すは「武双山関(現・藤島親方)のような低い立ち合いから一発で持っていく相撲」だ。“名門復活”を託された22歳は御嶽海(みたけうみ)の四股名で幕下10枚目格付け出しで“角界デビュー”を果たした。

 プロ初戦は明生(めいせい)を左ハズで押し込もうとするが相手に右上手を許し、上手投げを残しながら寄り切り。
「立ち遅れました。(プロの立ち合いには)慣れてない。突きたかった」と取組後は反省の弁が並ぶ。前夜は1時間ごとに目が覚めたらしく、「今までの相撲人生の中で一番緊張した」と明かす。続く一番も「上半身が浮きましたね。突き放せなかった」と自分の相撲を取らせてもらえず、大翔鵬の肩すかしに屈してプロ初黒星。

「本番に最高の形を持っていかないといけないけど、持っていけなかった」

 アマチュアはトーナメント戦なので1日に数番を取る。その中で徐々にペースを上げていけばいいが、プロは基本的に1日一番だ。その日の一番にいかにピークを持っていくのかが重要なのだが、いかに実力があってもアマチュア出身力士が最も戸惑うのがまさにこの部分。

「悔しいですけど、あと5番あるので気持ちを切り替えていきたい」と前を向いた。
 
 その後は徐々に本来の動きを取り戻して5連勝、デビュー場所は6勝1敗としっかり結果を出した。ただし課題も残る。
「立ち合いがまだですね。合わなかったし難しい。自分の相撲は取れなかったけど6番勝てて良かったです」と振り返る。タイミングを微妙にずらしてきたり、有無を言わせぬスピードであったりと、プロには立ち合いのインサイドワークに長けている海千山千のつわものたちが手ぐすねを引いて待っている。相手と呼吸を合わせつつ、いかに自分のペースに持ち込んで相撲が取れるか。プロで成功するためにはその部分が大きなカギとなってくる。

1/2ページ

著者プロフィール

1967年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、百貨店勤務を経てフリーライターに転身。相撲ジャーナリストとして専門誌に寄稿、連載。およびテレビ出演、コメント提供多数。著書に『歴史ポケットスポーツ新聞 相撲』『歴史ポケットスポーツ新聞 プロレス』『東京六大学野球史』『大相撲事件史』『大相撲あるある』など。『大相撲八百長批判を嗤う』では著者の玉木正之氏と対談。雑誌『相撲ファン』で監修を務める。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント