2強に見るフットボールと精神状態の関係 不調に陥ったレアル、自信回復のバルサ

批判の矛先はC・ロナウドにも

レアル・マドリーはビルバオに敗れ、首位から転落。C・ロナウド(白)も不発に終わった 【写真:ロイター/アフロ】

 シーズンの終盤に差し掛かろうとしているこのタイミングで、ほんの1カ月前までまず難しいだろうと思われていたことが現実のものとなった。リーガ・エスパニョーラの首位が入れ替わったのだ。

「フットボールは精神状態を表す」。改めて今、この言葉が真実を示していることを実感している。

 数日前に決めたコパデルレイ決勝進出に勢いづくアスレティック・ビルバオに対し、不調が長引く中で精神的に追い込まれていたレアル・マドリーが敗れること(0−1/第26節)は、予想通りとは言わないまでも驚くべきことではなかった。

 公式戦22連勝という大記録を樹立したシーズン前半に耳にした「今季のレアル・マドリーは攻撃面であらゆる記録を塗り替える」といった景気の良い報道は、ルカ・モドリッチの離脱とともに目に見えて減少していった。その後目に付くようになったのは、カルロ・アンチェロッティ監督がBBCと呼ばれるクリスティアーノ・ロナウド、カリム・ベンゼマ、ギャレス・ベイルの3トップを断念し、ベイルを外して4−4−2にシステムを変更するのではないか、といった意見だ(編注:BBCはベイル、ベンゼマ、C・ロナウドの頭文字を取ったもの)。

 批判の矛先が向けられているのはベイルだけではない。一時的な不調に過ぎないのか、恋人のイリナ・シェイクと別れたプライベートの事情がピッチ上のパフォーマンスに影響しているのか、いずれにせよベストの状態にないことが見て取れるC・ロナウドもその一人だ。ゴール数が減っているだけでなく、最近は枠内シュートすらほとんど打てていない試合が続いているのは、それまでの彼のキャリアを考えれば異常なことである(編注:10日に行われたチャンピオンズリーグのシャルケ戦では2ゴール)。

メッシは32回目のハットトリック

ラージョを一蹴したバルセロナはメッシが32回目のハットトリックを達成。チームとしての状態は上向いている 【写真:ロイター/アフロ】

 レアル・マドリーとは対照的に好調を維持するバルセロナは、2試合連続で勝利を逃したライバルの足踏みを生かし、16節ぶりとなる首位奪取に成功した。

 第26節でラージョ・バジェカーノと対戦したバルセロナは6−1で勝利し、長らく追い続けてきた首位の座に返り咲いただけでなく、チーム総得点でもレアル・マドリーを上回った(76ゴール対75ゴール)。さらにリオネル・メッシはスペインフットボール界の新記録となる通算32回目のハットトリックを達成するとともに、一時は12ゴール差を付けられていたC・ロナウドの背中を捉え、ピチーチ(得点王)争いの首位タイに並んだ。

 それだけが原因ではないものの、バルセロナの巻き返しについてもフットボールと精神状態の関係が当てはまる。プレー内容に改善された部分も見られるとはいえ、依然として数年前までの機能性を取り戻したわけではない。それでもここまでチームの状態が上向いてきたのは、エル・マドリガルでビジャレアルを破って(3−1)コパデルレイ決勝に勝ち進むなど、結果を出し続けることで自信を回復してきたからだ。

 大勝を飾ったラージョ・バジェカーノ戦にて、ルイス・エンリケはボールポゼッションと前線への配給経路を確保すべく、久々にシャビとアンドレス・イニエスタをそろって先発起用することを決断した。この日はネイマールが出場停止で、代役のペドロ・ロドリゲスは先発の機会を生かせずチャンスを逃し続けたものの、ようやく持ち前の才能と得点力を発揮しはじめたルイス・スアレスが2ゴール。最高の状態にあるわけではなく、断続的にしか良いプレーを見せない試合が多いメッシも、その洗練された決定力によりわずかな時間で3度も敵陣のゴールネットを揺らした。

チームの精神状態が何よりも重要

 精神状態が決定的要因となるフットボールにおいては、ピッチ上で生じるあらゆる出来事に何らかの原因がある。この2週間のうちに、バルセロナはあまりにも大きな利益を手にした。CLでは準々決勝進出に大きく近づき、コパデルレイでは2年連続の決勝進出を決め、リーガではエル・クラシコの2週前に首位を奪取しただけでなく、ホームでバレンシアと引き分けた3位アトレティコ・マドリーとの勝ち点差を広げることもできた。

 長いシーズンにおいては、どんなチームも良い流れ、悪い流れを経験するものだ。チーム力に差がない場合、最終的に上に立つのは良い流れを最大限に生かしたチームとなる。現代のフットボールにおいて、試合結果に影響を及ぼすファクターの一つとしてチームの精神状態ほど重要なものはないのである。

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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