錦織圭から若き才能たちが学んだこと デビス杯での経験を飛躍のステップに

内田暁

絶対的なナンバー1がチームに果たす役割

錦織は自身がけん引役となり日本チーム全体の底上げを目指す 【写真:ロイター/アフロ】

「デビス杯では、勝った時に得れる経験値は他の試合より格段に大きい」

 これは、今回のカナダ戦で錦織が口にした言葉である。
 その得られる経験値とは、何か?

「ほとんどメンタル的なものですね。いつもよりプレッシャーのある中で良いテニスをすることによって、より強い気持ちを持って個人戦でも戦える。逆に負けた時はダメージ倍増ですが、勝てば学ぶことは大きいです」

 つまりは、チームが勝つことで個の力を伸ばし、結果としてチーム全体が底上げされる。さらに錦織は、イギリスをベスト8に牽引した“ビッグ4”のアンディ・マレーに自分の役目を重ねるように、こうも言った。

「マレーがいるイギリスの状況を見ても、絶対的なナンバー1が居ると、つられて他の選手も力を出せる。リーダー性を発揮できる選手が一人でも居るだけで、デビス杯は変わってくると思います」

 だから……と、彼は続けた。「西岡(良仁、ヨネックス)選手など若い選手も強くなってきているので、日本がベスト4に入るのが今の目標です」。

危機の時こそが成長のチャンス

19歳の西岡(左)もチームに帯同。錦織らとともに行動を共にし貴重な経験を得た 【写真:ロイター/アフロ】

 これら一連の発言からも透けて見えるように、25歳を迎えた今、錦織は自らが日本チームをけん引することにより、若い選手たちを引き上げようとしているようだ。

「自然と、自分が得たことやキャリアに生きた経験談などは、若い選手たちにも時々話します。彼らにも、僕の経験を生かしてほしいと思うので」

 錦織はそう言い、内山ら後進の選手たちは、錦織からアドバイスを受ける機会が最近特に増えたと言う。

 錦織に名指しで「強くなっている」と期待を向けられた西岡は、先月のデルレイビーチ国際選手権で予選を突破し、初のATPツアーベスト8と躍進を果たした19歳だ。今回は代表メンバーには選出されなかったものの、控え要員としてチームと共に行動し、ベンチから応援の言葉を掛け、時には練習相手も務めた。

 それら日の丸ジャージをまとった日々は、彼に高揚感をもたらしたが、同時に、自分はあくまで控えだという悔しさをも喚起する。「練習は試合に出る人たちが優先なので、それほど自分はできなかった。やはり、代表に選ばれたい」。アウェーで初めてチームに帯同した経験が、西岡に新たなモチベーションを与えたのは間違いない。

 錦織が世界のトップ20に躍り出た数年前、日本国内では錦織を「天才」だと特別視し、その活躍を自身の可能性と見る向きは少なかったように思う。しかし錦織は今、ともすれば“天然”とも言える親しみやすさで他の選手たちに接し、経験を伝え、そしてコート上では戦う背を見せることで、あるいは時に肩を並べコートに立つことで、仲間たちを力強くけん引している。

 今回のデビス杯で、日本はカナダに敗れた。今年9月には、ワールドグループ残留をかけ、再び胃の痛むような戦いに挑まなくてはならない。苦しい戦いになるのは、間違いない。

 だが使い古された言い回しではあるが、危機の時こそが成長のチャンスである。
 プレッシャーの掛かる戦いこそが、日本テニス界の今を築く中核選手や未来を担う若手たちが、「他の試合よりも格段に大きい」経験値を手にする、絶好の好機でもあるはずだ。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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