ルーキーたちが迎えたプロ初 Jリーグ新人研修で感じた現実と可能性

川端暁彦

夢を抱いてチャレンジする高卒選手

昨年秋のAFC U−19選手権に出場した井手口(青)は、U−22シンガポール遠征のメンバーにも選出されるなど、評価は抜群に高い 【写真:ロイター/アフロ】

 近年は選手の進学志向が強まっていることもあり、チーム数が増えているにもかかわらず、高卒でJリーグ入りする選手は漸減傾向にある。FC東京U−18に所属しながら、トップ昇格の話を蹴って慶應大に進んだ現日本代表FW武藤嘉紀(FC東京)が典型例だが、今年も筆者が知る限りでも2人の有力選手がトップ昇格を断って名門大学への進学を選択している。

 全国高等学校体育連盟(いわゆる部活動)のチームに所属する選手たちについては、その傾向がより顕著で、こちらもプロからのオファーを断って進学する選手が多数出ている。中には、志望大学の推薦をもらえなかったのでプロ入りへ切り替えたという選手もおり、ある種の逆転傾向すら見て取れた。背景には夢やチャレンジより現実とリスクを重視する社会の安定志向もあるが、単純にJリーグの「吸引力」が落ちているという一面もあるのだろう。冒頭に述べたように、プロの世界は確実にハイリスクであるだけに――。

 ただ、そんな時代だからこそ、夢を抱いてチャレンジする選手たちに対しては、自然と敬意を抱くというもの。新人研修の座学について「難しいっす」と笑いながら、「将来は海外でプレーしたい。そのためにもまずは京都で結果を出したい」と、プロの世界に目を輝かせたのは、京都サンガF.C.U−18からトップに昇格する奥川雅也だ。

 魔法のようなテクニックとスピードあるドリブルを武器とする奥川は、昨年秋のAFC U−19選手権にも出場した世代を代表する有力選手。卒業を前に欧州の有力クラブも興味を示していたほどで、高卒の“目玉”と言える存在だ。昨秋に骨折してしまったため、「まずはけがを治すしかない」と本人も苦笑いを浮かべる状態ではあるが、その特別なセンスにはJリーグの舞台で早く見てみたいと思わせるものがある。

高校選手権を沸かせた2人も意気込む

 奥川と同じ昨年のU−19代表選手の内、今回の新人研修に参加したのは他にMF井手口陽介(ガンバ大阪)もいる。彼の場合は昨年の内にトップチーム登録されてユースを「卒業」してしまっているので、定義によっては「新人」の対象から外れる選手だ。2月に行われるU−22日本代表のシンガポール遠征に高校生から唯一選出されるなど、持ち前の技巧に加えて激しさ・運動量も身に付けつつあるだけに、その評価は抜群に高い。

 高体連出身者では、流通経済大柏の左サイドハーフとして先の高校サッカー選手権を沸かせたDF小川諒也(FC東京)、あるいは東福岡で活躍したMF増山朝陽(ヴィッセル神戸)の名前が挙がるだろう。共に年代別代表の経歴がない「無印良品」という共通点がある。小川はキャンプの持久走で並み居るプロ選手たちをぶっちぎり、「高校でずっとやってきた“走り”の部分が通用すると分かった」と自信を深めた様子。持久力、スピード、左足という武器を携えて、日本代表DF太田宏介の守る左サイドバックの座を狙う。

 一方、増山は「まず、全部のスピードが違います」とプロのレベルの高さを感じている様子だったが、「チャンスがないとは思わない。『1年目だから』とか、まったく思っていない」と意気込みも失っていない。ネルシーニョ新監督は偏見なく若手を抜てきしていくタイプだけに、神戸U−18から昇格のDF山口真司とともに“チャンス”を待つことになる。

 ここに紹介した選手は、本当に一握り。まだまだ可能性を秘めた選手が多数、今年のJリーグには入ってきた。3月のJリーグ開幕時、130人余りの新人の内、ピッチに立っていられるのは両手の指に収まる程度だろう。ピッチに立てた選手とて、その先の将来が安泰というわけではない。だが、厳しい勝負の世界に覚悟を持って足を踏み入れてきた彼らこそがJリーグの未来を担う存在であることも、また間違いない。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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