さくらの新人Vは!? 藍の不調脱出は!?=2015年・米国女子ツアー展望

宮下幸恵

藍、美香も届かなかったルーキーV

今季から米国女子ツアーに参戦する横峯さくら。福嶋晃子以来16年ぶりとなる日本女子選手のルーキーVなるか!? 【写真は共同】

 2015年の米女子ツアーがいよいよ今月28日に戦いの火ぶたが切られる。不振からの復活を目指す宮里藍ら“なでしこ”勢のなか、最大の注目は横峯さくらがルーキーで勝つか、だろう。

 初戦の「コーツ選手権」(米フロリダ州オカラ)にエントリーしているのは、ダブル宮里と上原彩子だけ。自身のブログで「プロになって初めてのマンデー出場」と綴った横峯は本戦出場をかけた24日の予選会からの挑戦となった。しかし、結果は3オーバーの75で通過条件に届かなかった(繰上げ出場の可能性はあり)。

 早速米ツアーの洗礼を浴びることとなった横峯だが、日本から海を渡ってアメリカに挑むルーキーにとって、優勝とは常に超えがたい壁だった。最終予選会を12打差の圧勝で米ツアー切符を掴んだ藍も、高校卒業と同時にアメリカへ挑んだ美香も、初優勝までには4年の歳月を費やした。日本女子選手のルーキーVとなれば、1999年の福嶋晃子(フィリップス招待、アフラックチャンピオンズで2勝)まで遡る。ルーキーでは勝てない――そんな呪縛に挑むさくらには、言葉の違いや芝の違いのほかにも試練が待っている。

移動、待遇…待ち受ける試練

夫である森川陽太郎・メンタルトレーナーの存在はさくらにとって、慣れない海外生活の潤滑油になる 【写真は共同】

 最大の懸念は、長距離移動によるコンディションの維持が難しいことだ。米国内の景気後退によるスポンサー離れを味わったツアーは、グローバル化を掲げ東南アジアでの試合を増やし、34試合を行う今季の米本土開催(ハワイ州を除く)は17試合だけ。さらに日本では3日間大会が主流だが、米ツアーは4日間になり、世界を旅しながらベストのパフォーマンスを披露するのは並大抵のことではない。どの試合に出てどの試合をスキップするかスケジューリングも大切になる。

 かつて、日米を幾度となく往復しながら勝利を重ねる朴仁妃に、藍は「どうやって体調維持してるの?」と聞いたことがある。帰ってきた答は、「飛行機で寝るだけ」。拍子抜けするような答に、「その辺、日本人は繊細なところがある」と藍が言うように、スポット参戦での一時的な移動ではなくシーズン通しての移動となれば、知らず知らずのうちに疲労は蓄積していく。

 次なる試練は、“ルーキー待遇”だ。シーズン序盤や終盤戦はランキング上位者が出場するエリート大会になるため出場人数が絞られるが、通常144名が出場するツアーでは、予選ラウンドのティータイム(スタート順)が午前と午後に分かれており、無名のルーキーは早朝や午後遅いスタートに入ることがある。初日は午後遅くスタートしたにもかかわらず、2日目が朝イチなんてことも…。 さらに『ルーキーアワー』と呼ばれる新人教育もあり、トーナメント中にボランティアのスコア集計を見学したり、中継ブースを訪ねてみたりという時間もこなさなければならず、練習したい時に練習できないなんてジレンマもある。

最愛の夫が海外生活の潤滑油に

昨年はトップ10入りが一度もなかった宮里藍。米ツアー挑戦10年目の今季に復活をかける 【写真は共同】

 3つ目の試練は、少ないギャラリーでどうモチベーションを保つかということ。ティーグラウンドからグリーンまでギャラリーが鈴なりで取り囲む日本女子ツアーとは違い、優勝争い以外はまばらな観客なのが現実だ。

 上原彩子は早朝スタートのギャラリーの少なさに、「グリーンに乗ったのかどうか、(ピン近くに)ついたのかどうかも分からない」と苦笑いまじりに語ったことがある。スポット参戦で経験済みとは言え、米ツアーは孤独な戦いの連続だ。

 そんな横峯を支えるのは、夫でメンタルトレーナーでもある森川陽太郎氏。例えどんなスコアで上がってきても、無条件に受け入れてくれる存在がいれば、どれだけ心が癒されることか。昨年賞金女王など3冠に輝いたステーシー・ルイス(米)は、「ロープ外のことがうまくいっていれば、ロープ内のこともうまくいく」と言う。失敗も夫婦で笑いに変えれば、それは失敗ではなく思い出となり、慣れない海外生活の潤滑油になる。

藍は米ツアー挑戦10年目の節目

朴仁妃とともに2強として君臨する2014年度米国女子ツアー賞金女王のステーシー・ルイス。“なでしこ”勢の高い壁となる 【写真は共同】

 横峯がゴルフ人生の集大成をかける一方、ジュニア時代からのライバル・藍は、米ツアー挑戦10年目という節目を迎える。トップ10入りが1度もなかった昨年は10月「富邦LPGA台湾選手権 」(71位)で例年よりも早くシーズンが終了。今季の開幕戦をにらみ昨年12月に米国合宿を敢行し、年越しもアメリカで迎え調整を行った。10月から実戦から遠のいているだけに試合感を取り戻せるかが気になるところだが、さくらを刺激に復活を目指す。ほかにも、成長株の野村敏京が一気に殻を破りブレークするのか、堅実なプレーが武器の上原彩子も注目だ。

 朴仁妃、ルイスの2強が君臨し、17歳にしてすでにツアー通算5勝のリディア・コを象徴とする若手の躍進が目覚ましく、世代交代の波が押し寄せる米女子ツアー。一途にそして健気なまでに全力で勝負に挑むなでしこ達がどこまで割って入れるか。今年の米女子ゴルフツアーは、ひと味違った展開になりそうだ。
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著者プロフィール

サンケイスポーツを経て、2006年からフリーに。米女子ツアーを中心にバンクーバー五輪も取材し、新聞、通信社、ネットメディアに幅広く執筆(Twitterは@m_sachi)。2011年にニューヨークで第一子出産し子育て分野にも挑戦。ヤフージャパンで「NY発 子育て新常識」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/miyashitasachie/)を連載している。

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