17歳新星・宇野昌磨が見せた強心臓ぶり 全日本特有の雰囲気にものまれず3位発進

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トップ選手に共通するメンタリティ

全日本の大舞台で強心臓っぷりを発揮した宇野には、トップ選手が持つオーラーが漂っていた 【坂本清】

 また宇野の特筆すべき1つの長所は、その強心臓ぶりだ。全日本選手権は独特な緊張感がある。その雰囲気にのまれ、本来の演技をできない選手は後を絶たない。五輪、世界選手権、GPファイナルを制し、この日も首位発進した羽生でさえ、演技後は「緊張した」と明かしている(もっとも20歳の五輪王者は「その緊張を楽しんでいた」とも語ったのだが)。ましてや若き新たな才能に向けられた関心は少々過剰とも言えるものだった。

 しかし宇野は「そんなに緊張しなかった」とあっさり答える。本人曰く「昔は失敗したらどうしよう」と考えることもあったそうだが、現在は「不安があっても緊張することはあまりない」という。こうした変化は4回転とトリプルアクセルを習得できたという自信と無関係ではないはずだ。アスリートは武器となるスキルを身につけ、それを自覚したとき、メンタル面の成長と相まって、飛躍的な進化を遂げることがある。今季の宇野はその例に見事に当てはまる。確たる自信が精神を安定させ、精神の安定が演技にも良い影響を及ぼしている。

 トップを争う選手たちは、ほぼ例外なく強気な性格を持つものだ。たとえふがいない演技に終わったとしても、弱気な姿を見せない。落ち込んでいないはずはないのだが、あえて強い自分を演じることで、暗示をかけている部分もあるのだろう。羽生や現在休養中の浅田真央(中京大)らにはそういう傾向がある。

「緊張しなかった」とさらりと言ってのける宇野には、彼らと同じようなオーラが漂っているように感じられる。そしてそれは限られた選手しか持ち得ないものだ。

課題は表現力、ジャンプとの両立

 もちろん、だからと言ってすぐに世界のトップを争えるほど甘くはない。とりわけ課題は表現力にある。SPのファイブコンポーネンツはすべて7点台。演技構成点はトップの羽生と9点近くの差がある。技術点は0.08点差しかないため、合計スコアの差はそのまま表現力の差と言うことができる。リズムの取り方にメリハリがあり、音楽の捉え方にセンスは見て取れるが、まだスキルと意識が追いついていないというのが現状だ。それは本人も自覚している。

「去年と比較するとジャンプも難しくなってきていますが、表現を考えないといけないですね。でもどうしても試合になると『ジャンプを跳ばなきゃ』という気持ちが出てしまう。ただジャンプのことを考えながら踊っていると、あまり表現しきれなくなってしまう。そこを両立させることが課題です」

 急成長もあってか、他の選手からも注目を集める存在となっている。羽生は「新たなライバルとしてうれしいと思うと同時に、自分がこれからも頑張れるカンフル剤になる」とその台頭を歓迎する。2年前は141センチだった身長も今では159センチにまで伸びた。今後はますます演技の幅も広がってくるだろう。

「SPではまずまずの演技ができました。FSに向けてはSPでだめだったところを改善していきたいです。練習してきたことをすべて出し、見ている人が感動するような演技をしたいと思います」

 現在の日本男子フィギュアは黄金期を迎えている。その新たな担い手として、評価を確立することはできるのか。FSでその真価が問われる。

(取材・文 大橋護良/スポーツナビ)

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