五輪金へ、選手の先行く指導者育成を 日本テニス協会・植田実氏に聞く
日本人が秘めるダブルスの可能性
ジュニアの全米オープン、ダブルスで優勝した中川(左)。写真右はペアを組んだラファエル・マトス 【Getty Images】
16年のリオデジャネイロ、20年東京ともに一番に輝くメダルを目指しています。女子に関しても同じです。特にダブルスでのチャンスは大きくあると思いますし、ずっと追っていきたいですね。何色のメダルになるか分かりませんが、あくまでもそこに向けた意識を持ってやっていきます。
――まずはリオ五輪での金メダルが目標になりますね。
そうですね、錦織については僕らが想定していたよりもこの1年の(成長の)スピードはすごかったと思いますし、彼も五輪に関しての意識は相当あります。われわれとしては、彼は彼のそのままでやってほしいですし、彼と対等にできる選手を早い時期に作り、外に送り出すことが使命だと思っています。そんなに欲張るつもりはありませんが、長年日本テニスが目標にしてきたダブルスへの光明も彼が示してくれたし、他の日本人選手もダブルスへの取り組みを相当意識しています。コーチ陣も今、ものすごく勉強して能力が上がってきていますね。
――ダブルス選手を育成する方法のひとつとして、幼いころからペアを組み特化した育成を行う必要性も考えられますか?
考えられると思います。シングルスの場合は選手1人でカバーする範囲が広くかなり負荷がかかるのですが、ダブルスになると半分の動きで済むわけです。今まではダブルスのほうがより幅広いテクニックが必要だと言われていましたが、シングルスだと一面でやらないといけないことがたくさんあるので、むしろシングルスの方が幅広いテクニックが必要になるんです。11月にロンドンのツアーファイナルを視察したのですが、ダブルスには不器用な選手がものすごくたくさんいました。ということは、器用さやテクニックということ以上に、実直なまでにシステムを守り通すことが重要ということです。自由さよりも、テリトリーを完全に2人で守りきることが徹底的にできるかどうか、ということです。
そうなると動きは明らかにシングルスとは変わってきますから、やればやるほどシングルスができなくなってくる。だから、ダブルスのトップ選手でシングルスにも出ているプレーヤーはどんどん減ってきていますよね。それぐらい懸けたら可能性があると思いながら、今回帰ってきました。そういう意味では日本人でもやれると再認識しました。
――実際、シングルスとダブルスの両方をやりこなすのは負担も大きいですよね?
シングルスの戦いがどんどんタフになればなるほど、やはりダブルスには少ししか力を入れなくなってくる。逆に言えば、チャンスがあるということです。小さいころからダブルスに専念するのではなく、シングルスをやりつつ、ダブルス(のシステム)をもっとしっかり教え込まなければいけません。12歳以下の試合にもダブルスがありますが、全国大会に行くために、シングルスでやり始めて、ダブルスでもう少しやるというのをやらせたいですね。そのためには、全国のコーチへの働きかけが一番だと思いますし、実際、昨年の11月にはダブルス専門のコーチを呼んで講習会を行いました。そういった取り組みを始めたら、この1年で学生や高校生のダブルスが全然変わってきました。15年はもう少し仕掛けをして、特に学生の女子ダブルスはいい方向に持っていけるんじゃないかと思っているところです。
指導者に求められるグローバルな視野
指導者の国際感覚をいかに養うかが15年の課題だと語る植田氏 【スポーツナビ】
海外のコーチを招へいしたり、指導者を海外で勉強させることが15年の大きな課題です。コーチが海外で修行を積む数が、テニスだけでなくて日本のスポーツ界ではまだまだ少ないと思っています。僕は日本人のコーチング能力は高いと確信していますので、(サッカー男子元日本代表監督の)岡田武史さんが中国のチームを見たり、井村雅代さんがシンクロナイズドスイミング中国代表を指導したりということが、他の競技にもっとあってもいいんです。コーチや選手のフィールドは地球規模でないと絶対にいけません。
また、日本の指導者をよりグローバルに、より高いところに持っていくために、選手の一歩先を行かなければいけませんし、指導に専念できるような環境を作ってあげる必要があります。選手の指導、育成というのは1年で終わるような話ではなくて長いスパンでやらなければいけない。だけど、コーチが専念できないような環境がもしあったとしたら、選手サポートとしてはまだ片手落ちだと思うんですね。
――実際に指導者を取り巻く状況とはどのようなものですか?
例を挙げると雇用の面で、今働いているところをやめなければナショナルチームの仕事はできないといった環境があります。人生の選択として五輪に懸けるくらいの気持ちでやらないといけないとは思うのですが、家族があるコーチに実際それができるか、ということです。となると、僕としては本当に指導に専念できる環境を、国とそのコーチの所属先とが連携を取ってやれるような環境を作っていけるかが大事だと思っています。
例えばいいコーチが大学にいたとしたら、その大学からナショナルチームに出向する形にして給料(の支払い)は折半する。それは大学のためにもなりますし、国のためにも、そして選手のためにもなる。そういった人材をもっと増やしていかないといけないと思っているんです。
そして五輪が終わったときにまた元の所属先に戻って活躍の場があるということが、全国にいい指導者、いい経験をした指導者を残していくことにつながります。「これで終わりです。自分で仕事を見つけてください」というのは、指導者にとってものすごく大変なことです。その体制をこれからのスポーツ界は考えていかなきゃいけないなと思います。