ドゥンガ就任後6戦全勝の新生ブラジル 世代交代と改革によるセレソンの明と暗
“意外に”よくやっているブラジル代表
来年はコパ・アメリカ(南米選手権)があるが、年内は強化試合だけ。しかし、闘将は「将来を見据え、いろいろな選手を試しながらチーム作りを進めてゆく」などといった悠長なことを言っていられる状況ではなかった。良い内容で勝利を積み重ね、対内的にはW杯で受けたショックを少しでも和らげること、対外的には失墜した「フットボール王国」の威信を徐々に回復してゆくことを求められていた。
特に、10月に北京で行なわれたアルゼンチン戦が重要な意味合いを持っていた。W杯で準優勝というセレソン(ブラジル代表の愛称)を凌ぐ結果を残した宿敵に敗れるようなら、W杯で負った傷が再び激しくうずく。2010年南アフリカW杯でセレソンを率いて準々決勝で敗退し、加えて「傲慢(ごうまん)」というイメージが強く不人気のドゥンガは、国内メディアと国民から早くも「監督不適格」の烙印(らくいん)を押されかねなかった。
このような状況で、セレソンは9月に米国でコロンビア代表、エクアドル代表と対戦し、いずれも1−0で辛勝。そして、注目のアルゼンチン戦。序盤は相手攻撃陣のスピードとテクニックに圧倒されたが、攻守の切り替えを速め、プレー強度を高めることで主導権を握り、2−0で勝った。続いて、シンガポールで日本代表を4−0と一蹴。11月には、アウェーでトルコ代表を4−0、オーストリア代表を2−1で下した。
6戦全勝。総得点14、失点1。この成績なら、いかに辛口の国内メディアといえども合格点を与えざるをえない。「“意外に”よくやっている」という論調が主流となっている。
ネイマールを主将に据える
ネイマールはまだ22歳。攻撃の軸とはいえ、それまでチームの末っ子的存在だった。明るく素直だが人間的な重みは感じられず、チームリーダーの一人ですらなかった。しかし、ルイス・フェリペ・スコラーリ前監督に「背番号10」を託され、ドゥンガから主将就任を求められたことで、一気にセレソンのリーダーへと押し上げられた。そして、重責を引き受け、それを全うしようと懸命に努力する過程で、精神面で急成長。以前は試合によって調子の波があったが、W杯後は全ての試合で決定的な役割を果たしてきた。それは、セレソンの「背番号10」と「主将」という重みを正面から受け止め、常に極限まで集中してプレーしているからだろう。
結果を出しながら進める世代交代
勝利という結果を出しているだけでなく、ドゥンガは世代交代も進めている。W杯時から現在までに、5つのポジションのレギュラーを入れ替えた。GKは、状況判断が的確でミスが少ないジェフェルソン。センターバック(CB)チアゴ・シウバの代役にはジョアン・ミランダ。状況判断が的確で、技術的なミスがほとんどない。そして、右サイドバック(SB)に若手ダニーロ、左SBに中堅フィリペ・ルイス。当面、二人とも守備に重心を置き、時折、背後を突かれてピンチを招くことがあるが重大なミスは少ない。CFには、オールラウンド型ストライカーのジエゴ・タルデッリ。最初の2試合は不発だったが、アルゼンチン戦で2得点の大暴れ。ネイマールらとの連携も良好だ。
よりコンパクトにプレーし、ボールを失うと前線の選手も素早く守備に戻ることで、ボランチと最終ラインの負担を軽減。W杯で崩壊した守備を立て直しつつある。