ドゥンガ就任後6戦全勝の新生ブラジル 世代交代と改革によるセレソンの明と暗

沢田啓明

規律面でも厳格なドゥンガ

ドゥンガはすべてのポジションで選手を見直していることに加え、規律面でも厳格にし、選手たちに緊張感をもたらしている 【写真:ロイター/アフロ】

 監督がすべてのポジションで選手を見直していることに加え、規律に厳格であることもチームに緊張感をもたらしている。

 9月のコロンビア戦の翌日、右SBマイコンが門限に遅れると、即座にチームから追放。11月の欧州2連戦の期間中、チアゴ・シウバの発言が物議を醸した際にも、毅然(きぜん)とした態度を示した。トルコ戦で出場機会がなかったチアゴ・シウバが、「レギュラーでも主将でもなくなって、とても悲しい。しかも、監督から何の説明もないし、(新主将の)ネイマールとも会話がない」と漏らしたところ、「セレソンで立場を保証されている者など一人もいない」「試合で誰を起用するか、誰を主将にするかを決めるのは監督である自分」と厳しくたしなめたのである。

表面化してきた課題

 ドゥンガが行なってきた改革は、当面、好結果を生んでいる。ただし、いくつかの課題も表面化している。 

 まず、攻撃がネイマールに過度に依存していること。6試合の総得点14点のうち、実に半分がネイマールによるもので、チャンスメークにおいても中心的役割を果たす。ジエゴ・タルデッリとウィリアンは持ち味を発揮して2点ずつ取っているが、オスカルは消極的なプレーが多く、決定的な仕事ができていない。監督はフィリペ・コウチーニョ、ロベルト・フィルミーノらを試しており、今後、レギュラー交代もありえる。

 CFジエゴ・タルデッリは器用でプレーの幅が広い選手だが、圧倒的な決定力を備えているわけではない。11月の2試合で監督はルイス・アドリアーノを試したが、他の選手と全くリズムが合わず、前線で孤立していた。オプション探しが急務だ。

 両SBには対人守備に不安があり、攻撃参加も物足りない。控えも試せていない。

 そして、不適切な発言で波紋を呼んだチアゴ・シウバを、今後どう扱うか。現在は、ドゥンガとネイマールが本人と話し合ってなだめている状態だ。しかし、今後もミランダの控えの立場に置かれてチアゴ・シウバが再び不満を表明すれば、ドゥンガは彼をチームから追放せざるをえなくなるだろう。その場合、CBの選手層が薄くなり、チームにとって大打撃となる。

来年は極めて重要な一年に

結果を残しながらの再建が進むセレソン。来年チリで行なわれるコパ・アメリカで国民に求められているのは優勝のみ 【写真:ロイター/アフロ】

 セレソンは、来年3月末にパリでフランス代表と対戦し、6月11日から7月4日までチリで行なわれるコパ・アメリカに臨む。すでに一次リーグの組み分けが発表され、ブラジルはコロンビア、ペルー、ベネズエラと同組。首位で通過した場合、準々決勝でアルゼンチンかウルグアイと激突する可能性が高い。国内メディアと国民がセレソンに求めるのは、優勝だけ。そして、10月には18年ロシアW杯南米予選が始まる。

 ドゥンガは、最初の半年間はうまく切り抜けた。しかし、来年のコパ・アメリカで優勝を逃せば、それまでの成果など忘れ去られ、解任論が噴出しかねない。その一方で、真剣勝負を通じて表面化するであろう新たな問題点や課題を克服しながら結果を出すことができれば、ブラジルは未来を切り開く黄金の鍵を手にできるかもしれない。

 全てのブラジル人は、18年ロシアW杯で14年大会の雪辱を果たすことを切望している。そのための一里塚として、来年はセレソンにとって極めて重要な一年となるはずだ。

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著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

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