明るみになったスペインフットボールの闇 死傷事件に八百長疑惑、汚職など問題続出
前節、ウルトラスの暴動事件が勃発
アトレティコとのアウェー戦で、懸命に声援を送るデポルティーボのサポーター 【写真:ロイター/アフロ】
リーガ・エスパニョーラの評判を地に落とす脅威となりつつある今回の事件は、スポーツと政治の両分野における関係当局の手で細部に至るまで徹底的に捜査されるべきものだ。そうでなければ近い将来、さらに重大な事態をもたらす危険性があることを、多くのデータが物語っている。
第一の問題は、事件が起きた日曜の午前中にスペインサッカー連盟(RFEF)本部が機能しておらず、試合を開催すべきか中止すべきか迅速な判断が下せなかったことだ。この失態は間違いなくスペイン政府首相のマリアーノ・ラホイ・ブレイとRFEF会長アンヘル・マリア・ビジャールの関係悪化を深めるきっかけとなるだろう。
また同じくRFEFと対立関係にあり、より中央政府の政治家たちと親しい関係にあるスペインプロリーグ機構(LFP)の役員たちは、アトレティコのウルトラス「フレンテ・アトレティコ」と「リアソール・ブルース」がWhatsApp(通信アプリ)を使って直接連絡を取り合い、計画的に今回の大乱闘を起こした疑いがあることを大いに懸念している。しかも今回の暴動には、スポルティング・ヒホンのウルトラス「ウルトラ・ボーイズ」などが同じネオナチ思想を持つ「フレンテ・アトレティコ」側に加勢していたことも分かっている。
こうした状況は、スペインにおける組織的暴力を増加させる引き金となる恐れがある。その兆しは以前からあった。特定の政治思想を持った多くのウルトラスグループが各クラブと密な関係を結ぶ中で、徐々にフットボール絡みの暴力事件が増えていたからだ。サポーターグループ「ボイショス・ノイス」を追放したバルセロナの元会長ジョアン・ラポルタのようにクラブとウルトラスとの癒着関係を断ち、スタジアムから追い出すことに成功した例は数少ない。なおラポルタの後を継いだサンドロ・ロセイはカンプノウのゴール裏に「応援団席」を設ける計画を立てたものの、ウルトラスのスタジアム回帰につながる危険性があるとの反対を受け断念している。
長引く政府とRFEFの対立
死傷事件に八百長疑惑、汚職に公金の横領など、多くの問題に追われているRFEFのビジャール会長 【写真:ロイター/アフロ】
この問題を通して悪化した政府とRFEFの対立関係は、今後さらに重大な危機をもたらすことになりかねない。政府とRFEFの対立は10年以上前から存在する。RFEFは2004〜12年まで続いたホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ前政権時にも同様の問題を抱え、国際サッカー連盟(FIFA)のジョセフ・ブラッター会長がユーロ(欧州選手権)2008の出場権を剥奪する可能性まで持ち出して仲裁に入る事態にまで至った。
今回の件はFIFAが介入する事態にはなっていないものの、ビジャールは五輪代表がリオ五輪に出場する際の経費として確保していた予算から、助成金の廃止によって生じた各クラブの損害を補填(ほてん)する必要に迫られている。なぜなら、助成金の廃止はビジャールとCSDのミゲル・カルデナル会長との対立が原因だからだ。
もちろん本人は公に否定しているが、助成金の廃止を求めたのは当のビジャールだと言われている。今後も助成金を受け続ける場合、今年12月に施行されたばかりの新たな法令に則り、助成金を受ける全ての組織がその用途だけでなく、収支の詳細をCSDに報告する義務が生じるからだ。きっと外には言えない使途がいろいろとあるのだろう。ビジャールとRFEFはその報告義務を何とかして逃れようとしているようなのだ。
とはいえこのまま助成金が廃止になれば、長引く経済危機に苦しむ多くの地方クラブが存続の危機に立たされかねない。これはRFEFにとってLFPや政府との対立以上に厄介な問題である。
深刻な危機に包囲される
さらに先週末には、八百長の疑いがかけられている11年のレバンテ対サラゴサ戦に関わった両クラブの関係者を検察局が起訴する意向であることが発表された。起訴の対象となる数十人の中には、現在日本代表を率いるハビエル・アギーレ監督、アトレティコのキャプテンを務めるガビらが含まれている。同裁判の判決が出るのは15年の末になると見られているが、最終的に有罪判決を受けた場合は1〜6年の活動停止処分が課せられるという。
死傷事件に八百長疑惑、汚職に公金の横領。スペインフットボール界は今、深刻な危機に包囲されている。その事実はひとたびボールが華やかなリーガのピッチやスタジアムから離れ、その周辺やオフィスへと近づくたびに明らかになっている。
(翻訳:工藤拓)
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