羽生結弦を支える独特なメンタリティー
尽きない勝利への欲求、FSへの気づき

「悔しい感情はプラスになる」

“ただ目の前の試合に勝ちたい”という強い思いが、羽生を動かす原動力になっている
“ただ目の前の試合に勝ちたい”という強い思いが、羽生を動かす原動力になっている【坂本清】

 羽生には昨季のスケートカナダで、当時の世界王者パトリック・チャン(カナダ)を過剰にライバル視し、思うような結果を残せなかったという苦い経験がある。しかし、コーチであるブライアン・オーサーの「何週間も前から相手のことを考えてはいけない。試合直前に集中することが大事なんだ」というアドバイスにより、意識改革に成功。その後は飛躍的にスコアを伸ばし、GPファイナル、ソチ五輪、世界選手権をすべて勝ち取った。あくまで自分の演技にのみ集中した結果だった。


 しかし、今回のNHK杯では雑念が生じてしまった。けがの影響もあったのだろう。


「結局、自分の中で言い訳を作りやすかったんだと思います。練習もできていないからというね。だからこそ最終的にこういう結果(SPで5位)になってしまったんだと反省しています。6分間練習ではアナウンサーの声が聞こえたんです。その時点で集中が切れていましたね。曲がかかったときは集中していたと思うんですけど、そういうところが自分の甘さだと思います」


 課題が明確になったのであれば、それを修正するのは難しいことではない。羽生は翌日のFSに向けて、決意を述べた。


「悔しい感情はFSに向けてプラスになると思っています。練習してきたことを信じてやっていきたいです。FSはFSでまた違う演技ですし、昨季ともまったく違います。1試合1試合違うプログラムだという気持ちでやっていかないといけないと思っています」

FSでもう1つ奇跡を起こせるか

 かつてオーサーコーチは羽生についてこう語ったことがる。


「ユヅルは本当に独特なメンタリティーの持ち主だ。私は彼がまだどう考えているのかを発見するプロセスの中にいると思っている」


 どんなにふがいない結果に終わったとしても、羽生はその原因をあいまいにはごまかさない。あくまで強気な物言いで、自身を奮い立たせる。メディアの前でもしっかりと自分の考えを口にし、メディアを使って自身の考えを整理することさえある。根底にあるのは勝利への欲求だろう。五輪王者や、世界王者という肩書きは羽生にとって「重要なものではない」。ただ目の前の試合に勝ちたい。その強い気持ちが羽生を突き動かす原動力となっている。


 SPではメンタル面に問題があった。羽生も話しているように負傷を言い訳にしていた部分もある。しかし、SPの結果で再び勝利への渇望がよみがえってきた。現在首位の無良崇人(HIROTA)も「彼の強い心はFSでこそ生きるもの」と警戒する。


「この試合に勝ちたいとすごく思っています。優勝とか、3位以内とか、ファイナルとかここまで突き落とされているので、何とも言えないですが、とにかく今からはSPの内容や課題を見直し、しっかり寝て体力を回復し、練習とFSをきちんとやる。そうやって1つ1つ区切ってやっていきたいと思います」


 無良との差は8.27点。3月の世界選手権ではSPトップだった町田樹(関西大)に6.97点差をつけられながらも、FSで見事に逆転してみせた。自身の演技に集中したときの羽生の強さは昨季すでに証明されている。中国杯での負傷から「ここにいるのは奇跡的」と語った羽生だが、もう1つ奇跡を起こすことはできるだろうか。


(取材・文 大橋護良/スポーツナビ)

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