本田圭佑が描き出す新たなリーダー像 悩みながらピッチ内外で正解を模索する

木崎伸也

ずば抜けて高い“伝える力”

本田が持つリーダーとしての長所は「伝える力」がずば抜けて高いこと。オリジナルな言葉が次々と飛び出し、人を引きつける 【写真:アフロ】

 ファンダイクは、本田のリーダーとしての長所を3つあげた。

「まずは常に前向きで、決して弱音をはかないこと。これは日本人に共通する良さじゃないかな。2つ目は自分の考えを持っていて、周りの意見に流されないこと。これはステレオタイプな日本人の印象とは異なる部分だ。ケイスケは日本人の良さと、ヨーロッパ人の良さを両方持っている選手だと言える」

「そして3つ目の長所こそが、ケイスケの最大の特徴だと思う。それは『戦術を理解して、周りに分かりやすく指示するのが抜群にうまい』ということだ。ケイスケは戦術を見る目と、考える力が非常に優れている。私にとってキャプテンは、試合中にベンチからの指示を聞いて、周りに伝えられる選手でなければダメだ。ケイスケはまさにそれにうってつけの選手だった」

 伝える力――。

 この能力がずば抜けて高いことは、TVインタビューを見ればすぐに気がつくことだろう。ありふれた言葉ではなく、オリジナルの言葉が次々に飛び出し、人を引きつける。どんなスピーチライターでも、本田の熱を再現することは難しいだろう。

 チーム内で言葉を伝えるときに、本田は何を大切にしているのか。2012年にモスクワの練習場で会ったとき、CSKAのエースはこう語った。

「僕は1人でいるのも好きだし、みんなでワイワイするのも好きなんですよ。ただ、それを強制されるのが嫌なんです。だから1人になりたいときは1人になるし、騒ぎたいときは騒ぐ。代表内でのポジションはこんな感じです。鈍感なので、僕にマイナスの印象を持っている人がいても気がつかないですね。そういう人にめっちゃ明るく接している可能性があるから、イジメられてると感じているヤツもおるかもしれない(笑)」

 いわゆるキャラ勝ち。「自分から人を嫌いになることはない」というのが本田のスタンスだ。

変化しつつあるリーダーとしての接し方

W杯後は新しく代表に入ってきたメンバーとも積極的にコミュニケーションを取るなど、リーダーとしてのスタンスも変化が見られている 【写真:ロイター/アフロ】

 ただし、そういう普段のコミュニケーションが、まったく無意味なわけではない。本田は何気ない反応から、選手の性格を読み取っている。

「人に何かを伝えるっていうのは、緻密な作業。伝えた結果、どうなるかを分かっていないといけない。だから僕は普段のチームメイトの生活や振る舞いを見ている。観察している。自分なりに全選手の性格を『こういうタイプ』と言えますね。ミスした選手に『何やってんねん』と怒ったら、全員が違う反応をする。その反応を僕は細かく言えます」

 たとえば、相手が自信を失いやすいタイプであれば、なるべく励ますように声をかけ、しかし、本当に変化が必要なときに厳しい叱咤(しった)を与える。

「人を見て、伝えることを変える」

 それが本田流コミュニケーション術の大前提だ。もちろんプレースタイルで「新たな物差し」を模索しているように、リーダーシップのスタイルも完成したわけではない。ブラジルW杯後、リーダーとしての接し方も変化しつつある。

 それは耳を傾けない選手に対するスタンスだ。2012年に本田はこう語っていた。

「いつも言うことなんだけども、相手(チームメイト)を変えるっていうのは、俺がやるべきことではなくて、本人自身がやるべきことだから。俺はあくまでもきっかけを与えるにすぎない。自分が変わりたいと思わなくちゃ変われない。本人が気がつかなければ、それ以上の伸びしろはない。そういうふうに考えている」

 ついてくるやつだけを相手にする――。本気で変わろうとしていない人間を、本田の方から歩み寄って変化を促すことはなかった。

 だが今、本田は分け隔てなく若手に接しているように見える。冒頭のシンガポールの初練習では、ストレッチをしながら塩谷司と話し込んでいた。塩谷によると、ジャマイカ戦の前には「普段できていることを100としたら、それより下でもいいから普段やっていることをやろう」とアドバイスされたという。塩谷に限らず、多くの若手が短期間に本田から声をかけられていた。

 そういえば、ウルグアイ戦後に本田はこう語っていた。 

「互いが互いの担当を任せ合うことで、責任感が芽生えてくる。そこが自分の中ではW杯前と今とでは変え始めているところではあります」

 W杯前はピリピリとしたオーラを発し、自分にも仲間にも厳しいリーダーだった。しかし、今の本田は仲間に手を差し伸べ、包容力に溢れたリーダーになろうとしている。

 悩みながら、ときに傷つきながら、本田はピッチ内外で新たな正解を探している。

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

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