復活を期すマーメイド、アジアに挑む! 金子・井村体制で望むシンクロ日本代表

沢田聡子

採点方法の変更は「今の日本には有利ではない」

今季から「技術点」「完遂度、同時性」「難易度」の審判団によって採点されるようになった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 シンクロのルールは今季から変更されており、採点方法も変わっている。従来のフリールーティンの採点は「テクニカルメリット(技術点)」、「アーティスティックインプレッション(芸術点)」の2つの審判団により行われていた。しかし今季からは技術点が「エクスキューション(完遂度、同時性)」及び「ディフィカルティ(難易度)」の2つに分かれ、計3つの審判団によって採点されるのだ。

 ジャパンオープンの際、井村コーチは「難易度」の評価を上げるために演技を工夫する必要があると述べている。同大会で披露した日本チームのフリールーティン「ブラックマジック」は場面展開の速さが特徴だが、井村コーチは「難易度(の点)は取れるかな、と今考えている最中」と大会後の記者会見で話した。
「アイデアだけでは難易度は取れなくて、これでもか、みたいなテクニックを押し付ける、そういう部分もいるのかな、と」

 また、テクニカルルーティンでは新たに「エレメンツ(要素)」を採点する審判団が加わった。各規定要素をより厳密に評価するようになった変更について、金子チームリーダーは「かつての日本なら有利ですが、今の日本には有利ではない」と見ており、国際大会の映像で各国の点数の動向を見ながら、点の出方を探っているという。

 メダル圏内に入るためには、どの程度の点数が必要なのか?
「ヨーロッパ選手権を見ても、93〜95点台がロシア。88点〜90点ちょっとがスペイン。同じ88点台からの争いながら、91、2点をとっているのがウクライナ、というところが上位ですよね。だから、日本はやっぱり93点以上を目指していかなきゃいけない」(金子チームリーダー)

 ジャパンオープンのチームフリールーティン決勝での日本の得点は92.4点。国内大会であることも加味すると、今後メダル圏内を狙うには、やはりもう少し上積みしていく必要がありそうだ。

少しでも進化した日本を見せる

 アジア大会で日本のライバルとなるのが中国だが、井村コーチは具体的な目標を掲げていない。一方の金子チームリーダーは「(中国と)争う勝負はかけておかなくてはいけない」とするものの、アジア大会は中国寄りの審判が多い背景もあり、中国を上回るのはなかなか難しいのが実情だ。では、実力では日本と中国の差は縮まっているのだろうか?
「互角か、近づいているところでしょうね。スペインやウクライナよりは、日本が強くなっていると思いますけどね」(金子チームリーダー)

 今季の試合において現実的な目標として日本が目指すのは、まずはアジア大会で中国に迫る演技を見せること。そして10月のワールドカップ(カナダ・ケベックシティ)で、今季スペインを上回る勢いを見せているウクライナを抑えること、と言えそうだ。

「日本の底力はあるというところをしっかりと見せなければ、次へつながらないのがシンクロ」(金子チームリーダー)
「アジア大会、ワールドカップに少しでも進化した日本で出してやりたいと、それしか今は思っていません」(井村コーチ)

 採点競技であるシンクロで、一度落ち込んだ国際的な評価を上げていくのは至難の業だ。しかし、金子氏・井村氏はシンクロの黎明期には米国・カナダの遠い背中を追いかけて表彰台までたどり着き、その後も五輪の大舞台で無敵のロシアに食い下がる戦いを繰り広げてきた、日本が世界に誇る名伯楽だ。アジア大会初日となったデュエットでは乾友紀子(芦屋大)、三井梨紗子(日本大)組が中国に次ぐ銀メダルを獲得したが、この後、金子・井村体制で鍛え上げられた日本代表がどんな演技を見せるか、期待が高まるのを禁じ得ない。

2/2ページ

著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント