イチローにとってベストな役割は何か? 先発よりも“切り札”であることの意味
もし外野手が加われば確実に影響受ける
補強が進めばイチローのプレー時間は減少するが、必ずしもマイナスとは限らない。優勝を目指すチームの“切り札”の方がいいのではないか 【Getty Images】
「(補強に関しては)私が口を挟むことではない。選手たちを信頼しているし、現在のメンバーで挑み続けるだけ。誰かが加わったら、そのときはそのとき。それを心配するのは私の仕事ではないよ」
ジョー・ジラルディ監督はそう語ってはぐらかしたが、追い上げに向け、チームがさらなる補強を検討していることは間違いない。
27日には、CBSスポーツのジョン・ヘイマン記者が「ヤンキースはジョシュ・ウィリンハム(ツインズ)、マーロン・バード(フィリーズ)、アレックス・リオス(レンジャーズ)といった外野手を物色している」と報道。もしも長打力のある外野手が加われば、影響を受けるのはブレッド・ガードナー、ジャコビー・エルズベリーではない。まず確実に、イチローのプレー時間が再び大きく減ることになるはずだ。
そうなれば「イチローがピンチ」と騒がれるのだろうし、スーパースターの姿を見慣れた日本のファンは寂しく感じるかもしれない。ただ……私見を言えば、以前の立場に戻ることはイチローにとって、必ずしもマイナスばかりだとは思わない。
先発出場は良いことばかりではなかった
外野のすべてのポジションをハイレベルでこなす守備力は健在で、終盤イニングの代走でも相手守備陣に脅威を与えられるだけのスピードも保っている。週2、3戦の先発起用なら依然として快打も飛ばせることを今季前半戦に証明し、“控えの切り札”として新境地を見いだし始めたようにも見えた。
こんな選手が1人いれば、プレーオフを目指すチームの監督にとって心強いことは間違いあるまい。しかし……カルロス・ベルトランがケガで33試合を欠場したこと、アルフォンソ・ソリアーノが不調により戦力外通告を受けたことなどで、イチローを取り巻く状況も徐々に変わっていった。押し出されて先発に戻ったことは、ヤンキースだけでなく、イチローにとっても良いことばかりではなかったように思える。
今後、チームが補強を完遂すれば、立場は開幕直後とほぼ同様に戻る。そこで休みが増え、みずみずしさを取り戻し、重要な8、9月のゲームで打棒復活すればベスト。たとえ打率3割5分7厘と爆発した4月ほどは打てなくとも、守備、走塁まで含め、終盤の重要なプレーに絡む機会が増えることは十分に考えられる。そんな使い方が可能な陣容になれば、ヤンキースの追い上げの可能性が高まることも間違いないのではないか。
ウェイバー公示なしのトレード期限である7月中か、あるいはそれ以降かは分からないが、ヤンキースは外野陣に何らかのテコ入れを施すだろう。それ以降のイチローのプレーぶりに注目だ。プレーオフ進出が難しいチームのスタメンより、現実的に優勝を目指すチームの“終盤の切り札”の方がいい。
背番号31が勢いを取り戻せば、“まだ終わってはいない”と証明できる。ベンチからの登場だとしても、いや、ベンチスタートであるがゆえに、勝負どころの修羅場の中で輝くチャンスは残されているはずなのである。