批判報道で退任を決めたホン・ミョンボ 韓国サッカー界を揺らした突然の辞任劇

キム・ミョンウ

サッカー協会にも批判の矛先が向けられる

批判の矛先はホン氏だけではなく、韓国サッカー協会にも向けられている 【写真:Action Images/アフロ】

 批判の矛先はホン氏だけでなく、韓国サッカー協会にも向けられている。

 韓国大手紙『中央日報』は7月6日付の社説に「W杯で惨敗の韓国サッカー、協会から改造せよ」と見出しをつけ、W杯敗退後の監督留任劇を痛烈に批判していた。
「ホン・ミョンボ監督の留任決定の過程は失望感を抱かせる。帰国した代表チームに対するサッカーファンからの“アメの洗礼”(空港で記者会見中、一部のファンから代表を非難するためアメが投げつけられた)にもかかわらず、『代案がない』という理由でホン監督を留任させたが、形式と内容は不適切なものと評価されている。執行部の無責任と無能力はもちろん協会の閉鎖的な密室行政がそのまま表れた」

 ウ記者も今回の辞任劇は協会にも責任があると話す。
「サッカー協会がホン氏にそのまま監督を続投させようという安易な考え方がより問題を大きくしてしまった。ホン氏の辞任会見の日、チョン・モンギュ会長が会見に出席せず、ホ・ジョンム副会長が姿を現して辞任を発表したことも国民のひんしゅくを買ってしまった。今後の体制立て直しが急務となる」

 今回のホン氏の辞任により、今までになく韓国サッカー界は大きく揺れた。大手紙の社説にまで話題になるのだから、韓国においてサッカーというスポーツがいかに国民の関心事だったかがよく分かる。

次期監督候補にファン・ソンホンら。まだ時間はかかる

 そうなると熱を帯びてくるのが、代表監督の空席を誰が埋めるのかという報道だ。

 9月には国際Aマッチが予定されており、来年1月にはオーストラリアで開催されるアジアカップに備えて、新監督の選任を急ぐ必要がある。

 国内メディアではさまざまな憶測が飛んでいるが、第1候補として挙がっているのが、Kリーグ・クラシックの浦項スティーラース監督のファン・ソンホンだ。かつてはセレッソ大阪や柏レイソルでプレーし、1999年にはJリーグ得点王にもなった日本ではなじみのある人物。
 指導者としての実績は2007年から釜山アイパークの監督に就任し、11年から浦項スティーラースの監督を務め、昨年は国内リーグ戦とFAカップの2冠を達成した。現在、浦項はリーグ首位で、アジアチャンピオンズリーグ(以下ACL)は8強に進出している。

 ほかにも12年に蔚山現代をACL優勝に導いたキム・ホゴン、昨年のACLでFCソウルを準優勝に導いたチェ・ヨンス、Jリーグのサガン鳥栖を率いるユン・ジョンファンの名前も挙がっているが、どれもまだ水面下での動きで、誰になるのかははっきりしていない。

 02年W杯で指揮をとったフース・ヒディンクのような有能な外国人監督が必要だとの声もあるが、そう簡単には決まらないのが実情だろう。ホン氏の後を継ぐのは国内の指導者か、それとも外国人なのか――。代表監督が決まるまでは、まだ時間がかかりそうだ。

ホン氏は数少ない外国人のエッセンスを知る国内指導者

 最後に1つ言っておきたいことがある。今回のホン氏のいきさつに韓国国民はショックを隠し切れなかったに違いない。私自身もホン氏が02年日韓W杯でベスト4の原動力となり、Jリーグ時代の勇敢なプレーでファンを魅了してきた姿を知っている。それだけに、辞任のニュースを知ったときは相当なショックだった。

 それでも、ホン氏がW杯で失敗したとはいえ、これからも何らかの形で韓国サッカーに貢献していくに違いないということだ。

 現役時代にはヒディンクからサッカーを学び、05年には指導者人生をスタートさせたホン氏はディック・アドフォカートの下で韓国代表コーチを務めた。さらに06年から約1年間、ピム・ファーベークが韓国代表監督を務めたときも代表チームを補佐する役割を発揮し、指導者として必要なものをたくさん吸収していった。

 外国人指導者のエッセンスを肌で知る数少ない国内の指導者であるのは間違いないのだ。人間は誰にでも失敗はある。次はその失敗を教訓にし、再び表舞台に立つ日が来ることを願ってやまない。

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著者プロフィール

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

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