チーム力を上げるコミュニケーション術=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第9回

高島三幸

若手選手がコミュニケーションを図るための工夫

女子チームを率いて5年目となる今も、眞鍋監督はチーム力アップを進める難しさを感じている 【スポーツナビ】

 そうした目指すべきチームのカタチは見えつつも、女性のマネジメントについてよく講演などに呼ばれる私でも、やはり選手が変われば、チーム力アップを図るための進め方を一から探っていかなければいけない。毎年、難しいなと感じます。

 今年のチームは、年齢層が幅広く、五輪未経験の若い選手も多いため、まだまだコミュニケーションが足りていないと感じています。女子は特に周囲の様子を観察しながら、自分の立ち位置や行動を考えようとする。今のチームもまだ始動したばかりですから、そうした傾向が強いです。

 例えば、体育館ではコミュニケーションを図っていても、一歩体育館を出るとバラバラ。ご飯を食べているときも会話をせず、携帯電話ばかり触っていたり、自分が好きな人や話しやすい人しか話さないといった場面も見かけます。それは比較的、若い人に多く見受けられますが、ストレスがかかること、面倒なこと、それをすべて排除しながら生活しようという感じがしています。

 だから私は常々、「コートから出たときほど、コミュニケーションが必要だ」と選手たちに話しています。時には誰かの部屋に行って話をしたり、女子会を開いたり、何でもいいのです。バレーボールをする時間以外こそのコミュニケーションが、相手の性格や特徴、気持ちをじっくり知る場になると思います。

 選手同士がコミュニケーションを図れるように、われわれスタッフも工夫しています。部屋割も苦労しながら毎回、考えていますし、いくつかの少人数のチームに分かれ、コーチ陣がファシリテーターとなって、「世界一とは何か」というテーマで話し合うワークショップなども開いています。大人数の前で話せない選手も、少人数であれば話すことができ、その場でそれぞれの選手の性格や思考を知ることができる。選手自身も“考える場”を与えられることで、“世界一”について意識できます。

話し上手の男性部下に助けを借りる手もある

 チーム内のベテラン、中堅の立場を使ってうまく役割分担をさせながら、チーム力を上げていくことも考えています。木村沙織というキャプテンを軸に、今年から佐野優子、山口舞といった木村より年上で、五輪銅メダリストたちが全日本に帰ってきました。経験があり、苦楽を共にしながらメダルをつかんだこの2人の先輩は、木村にとって頼もしい支えに必ずなるはずです。年が近い中道瞳、迫田さおりという選手がいることも、木村がリーダー力を発揮しやすくなると思います。

 特に、五輪経験者が全日本に帰ってくることは大きいと考えています。経験者は試合における自分モードへのスイッチの入れ方がうまく、その態度やオーラは周囲にも伝わります。ピリピリした雰囲気はやはり必要で、チーム全体を引き締める効果もあるんです。

 私の中でキーパーソンだと考えているのは、前回の五輪では一番年下で、今回は中堅となる江畑幸子と新鍋理沙です。チーム内の半分を占める若い選手たちと、ベテランをつなぐ潤滑油になれるかどうかで、チームの雰囲気はガラリと変わってくる。そのことが、今回の彼女たちのテーマだと考えています。
 集合してまだ2カ月。彼女たちも自分のことで必死だと思いますので、タイミングを図って、2人には私がチーム内での役割について話そうかと思っています。

 コミュニケーションを密に図る方法はいくらでもあります。とにかく顔と顔を突き合わせて、練習時間以外に話す場を作る。その上で、チーム内の役割分担を明確にし、年齢も性格も思考も競技力も違う選手たちを、理念やベクトルを共有して徹底的に一つにまとめていくことが、思わぬ力を発揮させる“切り札”となり、全日本女子チーム独自の武器になると信じています。

 コミュニケーションと一口で言っても、ビジネスの現場では、内向的で女性と話すのが苦手というリーダーがいるかもしれません。そんな時は、自身が話さなくてもいい状況を作るといいでしょう。例えば、話し上手の男性部下がいれば、その部下に自身の考えを伝えて、代わりに女性部下に指示してもらう。すべてを一人で抱え込まず、第三者を巻き込んでコミュニケーションを図る方法もあると思います。

<この項、了>

プロフィール

眞鍋政義(まなべ まさよし)
1963年兵庫県姫路市生まれ。大阪商業大在学中に神戸ユニバーシアードでセッターとして金メダルを獲得し、全日本メンバーに初選出。88年ソウル五輪にも出場した。大学卒業後、新日本製鐵(現・堺ブレイザーズ)に入団。93年より選手兼監督を6年間務め、Vリーグで2度優勝。退団後、イタリアのセリエAでプレーし、旭化成やパナソニックなどを経て41歳で引退。2005年に久光製薬スプリングスの監督に就任し、2年目でリーグ優勝に導いた。09年全日本女子の監督に就任し、10年世界選手権で32年ぶりのメダル獲得に貢献。12年ロンドン五輪、13年のワールドグランドチャンピオンズカップで、それぞれ銅メダルに導く。

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著者プロフィール

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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