“内弁慶”を返上したエクアドル 敗戦にも見え隠れする世界で戦える自信

藤坂ガルシア千鶴

日韓大会への初出場で革命が起こる

W杯日韓大会から始まった長年の強化と、ルエダ監督の指導により世界と戦える選手をそろえた今大会のエクアドル。もはや高地の利だけには頼らない 【写真:Action Images/アフロ】

 国全体が「Si,se puede!」(やればできる!)というポジティブなスローガンを掲げ、エクアドルがW杯初出場を果たしたのが日韓大会のこと。この時の予選で、エクアドルは初めてブラジルとチリにホームでの勝利を収めただけでなく、アウェーでも3勝し、10チーム中2位という好成績で本大会出場権を獲得している。

 国内の有力紙『エル・コメルシオ』のティト・ロサーレス記者は「まさにあの時、エクアドルサッカー界に革命が起きた」と話す。

「W杯出場権を得た時から、われわれは育成の重要性に気づき、国内のクラブが下部組織に力を入れ始めた。アレックス・アギナガやアグスティン・デルガードのようなスターが次々と生まれる土壌を整えることが大切だと判断し、同大会で優勝候補の筆頭に挙げられていたフランスとアルゼンチンの育成部門に定評があったことから、同国まで研修に行く指導者が増え、若い才能を発掘して育てる地道な仕事に真剣に取り組むようになったわけだ」

 続く06年ドイツ大会の予選でも、エクアドルは安定したチーム力を見せ、ホームでアルゼンチン、ブラジル、チリ、パラグアイといった強豪を次々と粉砕。

「あの予選でのアルゼンチンは、ペケルマン監督が徹底した高地対策をとり、すでにラパスで逆転勝利を収めていたためにキトでも勝算は十分あった。だが、互角の攻め合いを展開しながらも、結局はエクアドルの執拗(しつよう)なプレッシングと速攻に勝てなかった」

高地でも平地でも戦い方は変わらない

 その後エクアドルは、本大会でもグループリーグでポーランドとコスタリカ相手に快勝し、史上初となる決勝トーナメント進出を実現。ところが、偉業を成し遂げたルイス・スアレス監督が続投するも、続く10年南アフリカ大会は予選落ちの運命を辿ることに。

「それまで代表のスター格だったデルガードが去り、世代交代の真っ只中にあった。07年のコパ・アメリカでの早期敗退に続く残念な結果に、代表チームの強化において協会が迷走するかと思われたとき、われわれは良い監督を迎えることになった。ルエダ監督だ」

 ルエダ監督は、ベースメンバーを固めることによってチーム力の安定を図ったと同時に、一時的に代表から離れていたルイス・サリタマやフェリペ・カイセドといった名選手たちを再び招集。代表レベルの国際大会出場経験のある20代半ばの選手たちで構成されたチームは、試合を重ねるごとに組織力を高め、見事にブラジル大会出場権を獲得。去る3月に行われたオーストラリアとの親善試合では、3点リードされてから4点をたたき込んで大逆転勝利を収めるほどの反撃力を見せた。

 ロサーレス記者は「オーストラリア戦を見ればエクアドル代表が分かる」と語る。「スピードに乗ったサイドアタックからの得点力と、経験値を生かした判断力と冷静さがルエダ監督のチームの基盤となっている。高地でも平地でも戦い方は全く変わらないし、変える必要もない。われわれには、世界と同等に戦えるだけの選手がそろっており、それはW杯初出場のときから始まった土壌作りの成果なのだ」
 
 このあとルエダ監督のエクアドルは、日本時間21日にホンジュラスと対戦する。ホンジュラスはルエダ監督にとって、前回大会で指揮を執り28年ぶりに予選突破を達成させた旧知のチーム。スイス戦の結果について「ほんの一瞬の油断が敗戦を招いた」とし、「われわれの特徴である秩序正しいプレーを取り戻し、気持ちを整えて次の試合に挑みたい」と語った裏には、もはや高地の利だけに頼らない、世界の舞台で互角に戦える自信が見え隠れしていた。

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著者プロフィール

89年よりブエノスアイレス在住。サッカー専門誌、スポーツ誌等にアルゼンチンと南米の情報を執筆。著書に「マラドーナ新たなる闘い」(河出書房新社)、「ストライカーのつくり方」(講談社新書)があり、W杯イヤーの今年、新しく「彼らのルーツ」(実業之日本社/大野美夏氏との共著)、「キャプテンメッシの挑戦」(朝日新聞出版)を出版。

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