4度のW杯経験を持つ猛者、川口能活 “偉大な”日本代表のブラジルでの可能性

今井雄一朗

とにかく悔しかった日韓大会

06年のドイツ大会で8年ぶりにピッチに立ち「本当に感極まるものがありました」と振り返る 【今井雄一朗】

――次のホーム開催となる02年日韓大会は、初出場を経てから戦うことができました。本大会を一度経験してから自国開催を迎えられたのは、大きかったと思いますが。

 話は前後してしまうんですけれど、フランス大会の時にはもう02年のW杯が日韓共催で、(開催国枠として)日本代表が出場できることは分かっていたわけです。だからその前に何とかW杯に出なければいけない、というものすごいプレッシャーがフランス大会の時にはありました。本当に、あの時のアジア予選は大変でした。

 そうして迎えた02年の大会は、(フィリップ・)トルシエ監督のマネジメント力を感じました。監督が就任してからの4年間は常に競争があった。全員がポジション争いをするんだという方針の下、競争意識を持ってやれたし、その中でチームは一致団結した。大会期間中も、日本でやっているのに外から情報が入らないように隔離状態で過ごさせてくれたので、自分たちもトレーニングと休養に集中できました。それだけでなく、監督は何日か家族や恋人たちと過ごす時間も作ってくれたんですよ。地元開催というプレッシャーの中だったにもかかわらず、素晴らしい結果を出せたのはトルシエ監督のマネジメント力でしたね。僕は試合に出られなかったので、その時はとにかく悔しかった。ですが、今振り返って、戦略に長けていたなと思います。チーム作りの過程の中でちゃんとしたビジョンを持って、それが成功した。非常に良い例を作れたと思います。

実力を出し切れなかったドイツ大会

――次の06年ドイツ大会では、日韓大会の悔しさをぶつけたところもありましたか?

 初戦のオーストラリア戦で8年ぶりにW杯のピッチに立った時、本当に感極まるものがありました。「このためにやってきたんだ」と。日韓大会で自分は出番がなくて、次のドイツ大会こそ、と思っていたから。このためにやってきた、という思いは強かったですね。

――ただしドイツ大会は黄金世代と呼ばれる選手がそろい、周囲の期待がとても高まった中で、それ相応の結果を残せませんでした。

 何というか……。大会前にドイツとトレーニングマッチをやって引き分けて、素晴らしいパフォーマンスを見せることができたんです。そうなればやっぱり、大会に向けて(気持ちが)高まっていきますよね。でもその1週間後にマルタとやって、1−0で勝ったんですが、内容がすごく悪かった。そこでチームの雰囲気が悪くなってしまったんです。たぶんジーコ監督としては、「ドイツとは良い試合をするけれど勝てなかった。でもマルタとやって自信を回復して……」という風に大会に臨めればと考えていたと思うんです。でもドイツとのゲームで自分たちが思った以上にできたことで、少し慢心が生まれたのかもしれない。ドイツと互角以上のゲームをしたんですからね。これがW杯ではなく、普通の親善試合だったら相当な自信になりますけど、あの試合で逆にピークが来てしまった。そこまではかなり順調だったんですが、「これで大丈夫か?」という空気が流れたまま、初戦のオーストラリア戦を迎えてしまった。今思うと、初戦のみんなは動けていなかったですよね。

――ドイツ大会は、うまく大会に入ることができなかった悔しさがある?

 というよりは、ジーコさんの下で4年間チーム作りをしてきて、その集大成である本大会で自分たちの持っている実力をすべて出し切れなかった。トルシエ監督の時には出し切れたんです。あれだけのメンバーがいたにもかかわらず、本来自分たちが持っているポテンシャルを出し切れなかったのが悔しかった。マネジメントなんていうのは言い訳に過ぎないし、何とかなるものです。

W杯未勝利が、現役を続けるモチベーション

――フランス、日韓、ドイツ大会と、本気の各国代表と戦うことを経験されたわけですが、その感じ方というものは大会ごとに変わりましたか?

 ドイツ大会の前年にコンフェデレーションズカップをドイツで戦ったんですけど、その時にブラジルと対戦したんです。2−2で引き分けて、その時にチームの成長をすごく感じたものです。「このまま成長していけば、オレたちはドイツ大会でけっこうやれるんじゃないか」と。でも1年後に本大会で対戦したブラジルは、まったく別のチームでした。よく強豪国は親善試合では手を抜くとか、本気は出さないとか言いますけれど、ブラジルは本当にコンフェデで手を抜いていたんだと思いましたよ(笑)。W杯のブラジルは別物でした。僕は本大会でアルゼンチンともクロアチアともやっていますし、ドイツ大会のオーストラリアは今の日本代表以上のポテンシャルを持ったチームでした。ほぼ全員がプレミアリーグでレギュラーの選手でしたからね。それ以外にもいろいろな国際試合を戦ってきましたけれど、ドイツW杯で戦ったブラジルが一番強かった。別格でした。

 経験というのは大きいし、積み重ねも大事だし、それは試合に生きてくるんですけど、あの時のブラジルにはそれが通用しなかったです。それぐらいW杯は別次元ということで、だから勝つのは難しい。僕はW杯のピッチ上で勝つことができなかったので、そこは本当に悔しいところです。それが今、現役を続けるモチベーションになってはいるんですけどね。

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著者プロフィール

1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。以来、有料ウェブマガジン『赤鯱新報』はじめ、名古屋グランパスの取材と愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする日々。

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