アルゼンチンとブラジル、因縁の歴史 南米二強はいかにしてライバルとなったか

藤坂ガルシア千鶴

転機となったペレの登場

バルセロナでチームメイトのメッシ(左)とネイマール。両国のエースは互いに認め合っており、良い関係を築いている 【Getty Images】

 一方のアルゼンチンは、40年代半ばに突如として現れた大スター、アルフレド・ディ・ステファノの活躍から、ますます「世界のトップクラス」としての名声をほしいままにしていた。コパ・アメリカでも、ブラジルは決勝でアルゼンチンと当たって勝った試しがなく、完全に格下の相手と見なされていた。

 だがここで、ひとりの若者がブラジルのサッカー史に転機をもたらす。1958年W杯・スウェーデン大会に17歳の若さで出場し、背番号10をつけてブラジルの初優勝に貢献したペレである。

 ペレの登場とブラジルの世界制覇は、アルゼンチンサッカー界に警鐘を鳴らした。それまではコパ・アメリカ最多優勝数を誇り、ディ・ステファノという世界ナンバーワンのプレーヤーを生み出した国として胸を張っていたアルゼンチンにとって、自分たちがいまだ手にしたことのない「世界一」の称号を勝ち取り、天才的なテクニックと得点力を持った弱冠17歳の若者を擁したブラジルは一気に「危険な存在」となった。

 それでも、翌1959年のコパ・アメリカで今一度アルゼンチンがブラジルを抑えつけて優勝を遂げ、優勢を保ったかに見えたが、1962年、チリで開催されたW杯で再びブラジルが優勝。アルゼンチン人はここで、ブラジルのサッカーに対して嫉妬の炎を燃やし、ライバル意識に火をつけることになったのである。

 その後、ペレを従えたブラジルの勢いはとどまることなく、アルゼンチンが予選落ちした1970年のW杯・メキシコ大会で全盛期のペレの活躍から3度目の世界制覇を成し遂げた瞬間、両国間に本格的なライバル関係が誕生。アルゼンチンは宿敵に追いつくために何が何でもW杯で優勝することを目標に掲げ、1978年、軍事政権下における自国開催となった大会で悲願の初優勝を達成した。

国同士は友好関係にある

 アルゼンチンとブラジルは過去、W杯において4回対戦している。1974年の西ドイツ大会では、共にさえないプレーを展開した末にブラジルが2−1と辛勝し、1978年大会では無得点のドロー。しかし同大会においては、両者が決勝進出を懸けて戦った2次リーグ最終戦において、ブラジルを上回るためにペルーに4点差をつけて勝たなければならなかったアルゼンチンが6−0と圧勝し、八百長疑惑がかけられた。

 続く1982年のスペイン大会では、ジーコ、ソクラテス、トニーニョ・セレーゾにファルカンといった名手たちをそろえて優勝候補とうたわれたブラジルが、未熟なディエゴ・マラドーナを擁するアルゼンチンを3−1と撃破。そして1990年大会、ブラジルが終始ゲームの主導権を握ったゲームで、81分、マラドーナの突破からカニーヒアが決勝点をマークしてアルゼンチンに勝利をもたらした。この試合については後日、アルゼンチン側が何らかの薬品が入った水をブラジルの選手に飲ませたとマラドーナが暴露したため、今日に至るまで議論を巻き起こしている。ペレとマラドーナがいまだに「どちらが上か」と決着をつけたがるのも、両国の因縁を象徴する現象だといえよう。

 サッカーにおいては火花を散らし合うアルゼンチンとブラジルだが、国同士は友好関係にあり、人々も決して憎み合っているわけではない。アルゼンチンの人たちは、いつも太陽のように明るいブラジルの人たちに好感を抱いており、ブラジルからは常に大勢の観光客がアルゼンチンを訪問する。現在両国を代表するスターであるリオネル・メッシとネイマールも、バルセロナのチームメイトとして互いにリスペクトし合う仲だ。

 それでもやはり、ライバルに勝つことは特別な意味を持つ。これまで数々のゴールをマークしてきたメッシは、「一番思い出に残っているゴール」として、2012年に行われたブラジルとの親善試合で決めた得点を挙げており、ネイマールは今回のW杯を前に、メッシに対して「君の幸運を祈っているけれど、決勝では勝たせてもらうよ」と告げている。

 今大会では、両者ともグループリーグを首位で通過した場合、決勝戦まで顔を合わせない組み合わせとなっている。現地時間7月13日、南米のライバル同士による初の世界一決定戦が実現するのかどうかに注目したい。

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著者プロフィール

89年よりブエノスアイレス在住。サッカー専門誌、スポーツ誌等にアルゼンチンと南米の情報を執筆。著書に「マラドーナ新たなる闘い」(河出書房新社)、「ストライカーのつくり方」(講談社新書)があり、W杯イヤーの今年、新しく「彼らのルーツ」(実業之日本社/大野美夏氏との共著)、「キャプテンメッシの挑戦」(朝日新聞出版)を出版。

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