35歳・能見篤史にかかる大きな負担 阪神Vのために残る少々の不安

山田隆道

シーズン後半での息切れが心配

エース・能見の負担を軽減させるためにも、若き救世主の出現が待たれる 【写真は共同】

 過去の阪神を振り返ってみると、2003年の優勝時に先発投手として10勝を挙げた下柳剛が、まさに能見と同じ35歳だった。長身痩躯で端正な顔立ちの能見だけに、なんとなく若々しいイメージがあるかもしれないが、いつのまにかそういう年齢になったのだ。
 あのころの阪神投手陣は当時24歳の若きエース・井川慶が年間206イニングを投げて20勝を挙げた大黒柱で、35歳の下柳はローテの4番手、5番手を担うベテラン枠。したがって、首脳陣から表ローテ初戦などの重要な先発や完投を求められることはほとんどなく、6回を2〜3失点に抑えてリリーフにバトンをつなげば合格という立場だった。

 しかし、現在の能見は35歳という年齢ながら、かつての下柳と違って、ペナントの行方を占う重要な試合の先発を任せられるし、先発すれば完投を求められる。広島・前田や巨人・菅野より約10歳も年上なのに、彼らと同じフル回転を計算される。
 これは年間通して考えると、さすがに酷だと思う。なにしろ先述した井川もオリックスに在籍している現在は、30歳のエース・金子千尋や23歳の若きホープ・西勇輝がフル回転したうえで、ローテの5番手や6番手、あるいは谷間の先発投手として試合を作れば合格という、すっかりベテラン枠の立場なのだ。その井川と同年齢の能見が、全盛期の井川と同じような負荷を背負っているかと思うと、ただただ頭が下がると同時に、シーズン後半での体力的な息切れが心配になってくる。
 もちろん年齢ごとの体力には個人差があるため、それはあくまで指標のひとつにすぎないのだが、実際のところ今季の能見は試合終盤の5回以降に失点するケースが目立っている。これは加齢による体力の衰えとまったく無関係だと言えるのだろうか。

球界の“常識”を覆すか、35歳のエース

 いずれにせよ、今季の阪神が優勝を果たすためには、好調な打撃陣の一方で、少々不安の残る投手陣の整備が不可欠だろう。昨年とは正反対の状況だ。
 そして、そのためには35歳のベテランエース・能見篤史にかかる、あまりに大きな負担を少しでも軽減することが重要だと思う。幸い阪神にはメッセンジャーという完投能力の高い助っ人右腕がいるが、彼に加えて若い日本人投手の台頭があれば、能見もずいぶん楽になるだろう。そう、すなわち藤浪晋太郎の成長にかかっているということだ。

 今季ここまで苦しんでいる藤浪が、今まさにぶつかっている大きな壁を乗り越え、後半戦にでも覚醒すれば、阪神投手陣のメンバー構成は03年や05年のような理想的なバランスに近づく。「ベテラン>若手(中堅)」ではなく、「若手(中堅)>ベテラン」の図式で負担が分散される投手陣こそが、もっとも丈夫で長持ちのはずだ。

 21世紀に入って以降、セ・パ両リーグの優勝チームにおいて、35歳以上の先発投手がチーム内でトップクラスの投球回数を消化した、すなわちエースとしてフル回転したというケースは「一度もない」。それ以前を調べると、1999年の福岡ダイエー・工藤公康にさかのぼる。当時36歳の工藤は196と3分の1イニングを投げて、防御率2.38、奪三振196で投手2冠。チームの福岡移転後初となるリーグ制覇、日本一に貢献し、シーズンMVPにも輝いた。しかし、それも今から15年前の話である。優勝チームに君臨する35歳以上のエースとは、それだけ希少なのだ。

 阪神投手陣を背負う35歳のエース。今季の能見はこれまでの球界の“常識”を覆すか、それとも彼の負担を軽減する若き救世主が現れるのか。そこに注目したい。

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著者プロフィール

作家。1976年大阪生まれ。早稲田大学卒業。「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」などの小説を発表するほか、大の野球ファン(特に阪神)が高じて「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。現在、文学金魚で長編小説「家を看取る日」、日刊ゲンダイで野球コラム「対岸のヤジ」、東京スポーツ新聞で「悪魔の添削」を連載中。京都造形芸術大学文芸表現学科、東京Kip学伸(現代文・小論文クラス)で教鞭も執っている。

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