中断期間を迎えるにあたって 宇都宮徹壱の「初めてのジム通い」第4回

宇都宮徹壱

【イラスト:鈴木彩子】

インボディで4カ月の努力の成果を測定

【Getty Images】

 今年1月16日から、毎週1回のペースで続けていたジム通い。あれから4カ月が経過し、J1リーグよろしく中断期間に入ることになった。理由は、来月ブラジルで開幕するワールドカップ取材の準備で、やたらと忙しくなったからである。

 それまでは、どんなに時間がなくても必ず週1で2時間はジムで汗を流すようにしていた。この4カ月で休んだのはわずかに2回。急な会見取材が入ったとき、そして黄熱病の予防注射を打って大事をとったときである。それ以外はどんなに締め切りが迫っていても、打ち合わせや取材が立て込んでいても、何とか時間を捻出して週1のペースを崩さないように努力してきた。とはいえ、さすがに出発が近づいてくると、ジム通いの時間を作るのも難しくなってきた。

 中断期間前の最後のジム通いとなった5月15日、定期測定を行った。スタートからちょうど4カ月が経過して、どれくらい身体に変化があったのだろうか。これまでの努力の成果が試される瞬間である。測定で使うのは、インボディという機器。体重計に握力計のような握り手が左右に接続されていて、これに乗っかりながら左右の付属品を軽く握ると、体重、骨格筋量、体脂肪量、さらには体脂肪率といったデータがきれいにプリントアウトされて出てくる優れものだ。結果は、以下のとおり(単位はいずれもキロ)。

・体重=77.2
・骨格筋量=34.3
・体脂肪量=15.7

 これに、1月と3月のデータを加えて、それぞれの数値の推移を見ると、以下のとおり。

・体重=79.3→77.9→77.2
・骨格筋量=34.5→34.7→34.3
・体脂肪量=16.6→16.2→15.7

 体重は地味に減っているようで、4カ月で2.1キロ減。体脂肪量については、前回の計測では0.4キロしか減らなかったのが、その後の1カ月でさらに0.5キロ減って、合計0.9キロ減。いずれも見違えるほどの変化とは言い難いが、それでも多少は努力の跡が数字に現れていて、ちょっと安堵(あんど)した。

プロテインは本当に必要なのか?

【Getty Images】

 その一方で、骨格筋量まで0.4減っているのはどうしたことか。当初は筋量を増やすことで、基礎代謝の効率をよくしていこうと思ったのだが。測定に立ち会ってくれた女性トレーナーに原因を聞いてみると、「ちょっと筋トレの負荷が足りなかったかもしれませんね。あとは筋トレ後のタンパク質の摂取でしょうか。運動後の30分以内にプロテインを飲むことをお勧めします」という答えが返ってきた。

 筋トレの負荷については、もう少しチャレンジすることを意識することにした。少しずつ重りを増やしたり、10回3セットを15回3セットにすると同時に、インターバルを最低でも1分間は設ける。チェストプレスやショルダープレスなど、上腕や肩を鍛えるトレーニングでは相変わらずあごが上がってしまうが、下半身を鍛えるレッグプレスでは106キロの3セットをこなせるまでになった。自分の体重よりはるかに重い、3桁の負荷を動かせるようになったことには、密やかな達成感を覚える。体重や体脂肪量でも、同様のささやかな感動を覚えたいものだ。

 もうひとつのプロテインについては、個人的にいささか抵抗があった。何となく「ドーピング」的なイメージがあって、サプリメントとか健康食品とか、今まで購入して口に入れたりしたことがなかったのである。値段を確認したら、小さいのが1700円、大きいので4000円。こんなに高価なものなのかと驚く。バナナ味、イチゴ味、チョコレート味と、いろいろなテイストがあるようだが、正直なところ甘いものは苦手だ。塩辛味とかポン酢味とかないのだろうか。結局、甘さが少なくて水に溶かさなくても飲めるタイプを購入。トレーニングの直後に飲んでみたのだが、想像以上に味気なくて、好んで毎日摂取したくなるものではない。まさに薬そのものだ。
 余談ながらフェイスブックで「初めてプロテインを買った」と投稿したら、筋トレに詳しい友人から「宇都宮さんもいいトシなんだからさ、今からそんなに筋肉付けても、かえって体が重たくなるだけですよ」というアドバイスをいただいた。もちろん私とて、今から筋骨隆々になりたいのではない。一番の目的は、効率的な代謝と年齢を重ねても現場仕事が耐えられるだけの体力を付けることである。そうして考えると、必要以上に無理をしてプロテインを摂取する必要はないのかもしれない。

身体にメリハリが付くことはなかったけれど

【Getty Images】

 かくして、皆さんにあまりいい知らせをお伝えすることなく、中断期間を迎えることと相成ってしまった。今後はどうするか? スポナビ編集部からは「ブラジル滞在中に向こうのジムで鍛えるというのはどうですか?」という提案を受けたが、丁重にお断りしておいた。現地ではジムが併設されているような高級ホテルに泊まる予定はないし、時間的にも気持ち的にもブラジルで身体を鍛えるのは不可能であろう。そんなわけで当連載も、ここでいったん区切りとすることにしたい。そこで最後に、連載開始時からのテーマである「自分は変わることができるか」について、自分なりに総括することにしたい。

 確かに4カ月努力したわりには、体重も体型もそれほど変わることはなかった。フィジカル的な部分での変化は、インボディによる緻密な測定でなければ分からない程度のものである。その事実は、やはり認めざるを得ない。本気で体重と体型を変えたいのなら、食生活を根本からあらためるとか、もっと身体を動かす時間と機会を増やすとか、優秀な個人トレーナーと契約するしかなさそうだ。ただ、やっぱりビールは飲みたいし、これ以上スポーツで汗を流す時間を捻出するのは難しいし、個人トレーナーを雇うほどの経済的なゆとりもない。となると、今のペースを地道に続けていくしかないのだろう。

 残念ながら、身体にメリハリが付くことはなかった。しかしその代わりに、生活習慣に多少のメリハリが付いたように思う。ジム通いをする時間を確保するために、PCに向かう時の集中力が以前より高まっていったような気がする。また、それなりに筋力が付いてきたことで、重たい機材を担いでいても以前より疲れにくくなったし、腰痛で苦しむこともなくなった。これからブラジルでハードな取材の日々を送ることを考えると、これはこれで大きな収穫であったと胸を張って言える。
 人が変わるということは、決して生半可なことではない。ましてや間もなく50代を迎える「いいトシ」の男であれば、なおさらであろう。とはいえ、これから自由落下するだけの肉体に、週1で2時間くらいの刺激を与え続けることで、ほんの少しかもしれないけれど、まだまだ変われる余地があることを、私は今回のジム通いから身をもって知ることができた。そんなわけで、ブラジルでのミッションが終了したら、またジム通いを再開させることにしよう。今度こそ、目に見えて自分自身が変わるために。

<この稿、了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)、『日本代表の冒険』(光文社)など著書多数。『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した。2010年より有料メールマガジン『徹マガ』を配信中。Twitter:tete_room

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