沖縄拳法空手で最先端MMAに挑む菊野 4連勝中の水垣も参戦=UFC173

WOWOW

メインは無敗バンタム級王者バラオン防衛戦

UFC2勝目をめざす菊野は沖縄拳法空手で最先端MMAに挑む 【(C)Photo Courtesy of UFC】

 現地時間5月24日に米国ラスベガスで開催される「UFC173」(日本時間25日午前11時よりWOWOWプライムにて生中継)。メインはバンタム級王者ヘナン・バラオンの王座にTJ・ディラショーが挑むタイトル戦。デビュー戦で敗れて以降、1つの無効試合を挟んで35試合で負けなしという超人的記録を誇るバラオンは、ここのところ3連続完全決着勝利し、ますます強さを増している。今回も無敵の強さを見せるのか?

 セミでは元PRIDE二階級王者のダン・ヘンダーソンvs.ダニエル・コーミエという元五輪レスラー同士の対決も行なわれる。“皇帝”ヒョードル、ヴァンダレイ・シウバ、ショーグンをKOしたダンヘンと、アントニオ・シウバをKOし、ジョシュ・バーネット、フランク・ミアを破り、ヘビー級からライトヘビー級に転向したコーミエの一戦は絶対見逃せない。
 そして3月に空位のウェルター級王座をジョニー・ヘンドリックスと争って大激戦の末、惜しくも判定で敗れた“ケンカ屋”ロビー・ローラーが、わずか2カ月で戦線復帰し、ネイサン・マーコートをKOしたジェイク・エレンバーガーと激突。こちらも名勝負間違いなしのカードである。
 さらに今大会には、UFCで現在4連勝中の日本人エース、水垣偉弥と“世界のTK”の愛弟子の空手家・菊野克紀も参戦する。
 まさに、超豪華カード目白押しの大会である。

沖縄拳法空手の菊野vs.ボクシングのファーガソン

 日本人総合格闘家の先駆者としてUFCで活躍した“世界のTK”こと高阪剛氏の愛弟子の菊野克紀は、今大会でUFC2勝目をめざす。今年1月のオクタゴン・デビュー戦では、身長191センチの寝ワザ師クイン・マルハーンを打撃で圧倒し、判定勝利した。
 今回の相手は“UFC登竜門番組”TUFのシーズン13で、全試合KOで優勝した強豪トニー・ファーガソンだ。UFCでは4勝(2KO、1サブミッション)1敗の戦績だが、その主武器はボクシング元WBC世界ウェルター級王者ビクター・オルティスと特訓して磨きあげた強烈なパンチである。しかもファーガソンは、身長183センチでリーチが193センチもあるのが厄介だ。

「あれだけ長い腕でガードされると、克紀の得意の“三日月”が入れにくいですね」と菊野の師匠である高阪氏も言う。
 そう、菊野と言えば極真空手時代に鍛えた“三日月蹴り”が代名詞になっている。ミドルキックと前蹴りの中間の軌道で繰り出すこの蹴りは、足先が相手の内蔵にまでえぐり込み、受けた相手は地獄の苦しみを味わうことで有名だ。DREAM時代には、この三日月蹴りでアンドレ・ジダ(宇野薫や高谷裕之を倒した選手)を苦しめ、TKO勝ちしている。

 その三日月が使えないとなると、菊野は苦戦することになるのか――だが今の菊野の武器は、三日月だけではない。ここのところ、パンチの技術も驚くほど向上しているのだ。
 現在6連勝中だが、うち3試合はパンチで一撃KOしている(注:伊藤崇文戦は拳による顔面打撃禁止のルールだったため、掌底による打撃で一撃KO)。これは、菊野が2年ほど前に出会って惚れ込んだ、沖縄拳法空手の、突きの技術を使ったものだ。
 いま菊野は、沖縄拳法空手の型であるナイハンチやセイサンを毎日何時間も練習し、動きを体に刷り込む訓練をしている。また、サイなどの沖縄の伝統的武器を使う稽古も積んで、これによってパンチを打つ際に使う重心の移動を磨いている。
 最近の世界の総合格闘技界では、ボクシング、キックボクシング、レスリングの練習をたっぷりやりこみ、それに加えて総合のスパーや、心肺機能を高めるコンディショニング、ウェイト・トレーニング等にも専門のコーチをつけて行なうのが主流だ。
 しかし菊野は型を中心とした沖縄拳法空手の稽古と、高阪氏のジム、アライアンス・スクエアで行なう総合のスパーリング以外の練習は特にしていない。それでいて6連勝という実績を出しているところが非常に興味深い。

独特の歩法で間合いを詰め「注射するように」

 筆者は高阪氏のジムで菊野と、秋山成勲(UFCファイター)の打撃のマス・スパーを見せてもらったが、ボクシング・スタイルでステップを踏み、頭を振りながら前進してパンチをふるう秋山に対し、菊野は独特の歩法で間合いを詰め、すっと腕を伸ばして相手の顔を触るような感じでパンチを入れていた。
 スパーリング後、秋山に感想を聞くと、「菊野君は相手の動きに合わせてパンチをかわし、当てるのがうまいですね。カウンターがコツコツ当たります。あの打ち方は独特で、相手は拍子抜けするんじゃないですかね」。
 拍子抜けする、とはどういうことか? 菊野は「パンチは注射だ」と言う。
「相手の顔についたご飯粒を取るように、すっと触り、そこから押し込むんです。注射するような感じで」。そして歩法については、「ボクシングのステップも、普通の人の歩き方も、地面を蹴って前に進みますが、沖縄拳法空手の場合、地面を蹴らずにスーッと前に進む。ボーリングの玉がゴロゴロ転がるように。そうすると上下動もなく、相手に動きを認識されにくいんです」
 筆者も実際に向かい合って、菊野に軽く突きを打ってもらったが、離れた間合いにいたのに、いつのまにか、すっと懐に入ってきて、ずしりと重い突きを胸に入れられて驚いた。それまでに体験したどんな流派の空手とも、ムエタイやボクシングとも、まるで違う動きだった。
 菊野の参加している沖縄拳法空手の稽古会にも一度参加させてもらったが、重心の移動を非常に重視した稽古を繰り返し行っていた。また、ちょっと合気道にも似た、力ではなく重心の移動による投げの稽古もしていた。
「この投げは、前回のマルハーン戦でも使ったんですよ。相手はビックリしてましたね」と菊野はにこりと笑いながら言った。

 今回の相手、ファーガソンは元々大学レスリングで全米王者となり、ボクシングも世界王者と特訓し、総合の練習はマーク・ムニョス率いるレイン・トレーニング・センターで積んでいるバリバリの“アメリカンMMAファイター”だ。そんなファーガソンに対し、古流の沖縄拳法空手で立ち向かう菊野――古流が、最新のアメリカン・サイエンスに太刀打ちできるのか――この試合は、日本人として必見だ。

(文:稲垣 收/WOWOW UFC解説者)

■詳しくはUFC 番組オフィシャルサイト(wowow.co.jp/ufc)へアクセス!
http://www.wowow.co.jp/sports/ufc/

◆◆◆ WOWOW番組情報 ◆◆◆

★生中継!UFC−究極格闘技− UFC173 豪華カード揃い!バラオン&ローラー&水垣&菊野!
メインは、バンタム級王者ヘナン・バラオンにTUFシーズン14出身のTJ・ディラショーが挑むタイトルマッチ! 水垣偉弥と菊野克紀、2人の日本人ファイターも参戦。
5月25日(日)午前11:00〜[WOWOWプライム]※生中継
ゲスト解説:宇野薫
ゲスト:川尻達也(UFCファイター)
<主な対戦カード>
バンタム級タイトルマッチ:ヘナン・バラオン vs TJ・ディラショー
ライトヘビー級:ダニエル・コーミエ vs ダン・ヘンダーソン
ウェルター級:ロビー・ローラー vs ジェイク・エレンバーガー
バンタム級:水垣偉弥 vs フランシスコ・リベラ
ライト級:菊野克紀 vs トニー・ファーガソン


★生中継!UFC−究極格闘技− UFC174 デメトリアス防衛戦&国本起一・田中路教ダブル参戦!
UFC174をお届け!フライ級王者デメトリアス・ジョンソンの防衛戦、日本人ファイター、国本と田中が出場。ウェルター級注目の一戦、マクドナルドVSウッドリー戦も。
6月15日(日)午前11:00〜[WOWOWライブ]※生中継

<主な対戦カード>
フライ級タイトルマッチ:デメトリアス・ジョンソン vs アリ・バガウティノフ
ウェルター級:ローリー・マクドナルド vs タイロン・ウッドリー
ミドル級:国本起一 vs ダニエル・サラフィアン
バンタム級:田中路教 vs ローラン・デローム
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