黒田博樹“最後の意地”で限界説打破へ、ヤンキース浮沈の鍵は39歳の右腕に

杉浦大介

加齢による変化を自覚して生き抜けるか

19日のパイレーツ戦。試合中のベンチでさえない表情を見せる黒田 【写真は共同】

 開幕6連勝を続けてきた田中は、5月21日のカブス戦でメジャー初黒星を味わった。しかし、今季序盤戦に誇示した制球力、まだメジャー1年目というアドバンテージを考えれば、今後も大崩れは考えづらい。同じチームと2、3度目の対戦を迎えても、先発1〜2番手の力を保てるのではないか。

 一方の黒田は、1年前の今ごろのようにサイ・ヤング賞級の快刀乱麻を続けるのはもう難しいかもしれない。ただ、地元記者に切り捨てられた「せいぜい先発3〜4番手」という現状から、向上の余地がないとは思わない。

「奪三振の数などを見る限り、急激に力を失ってしまったとは考えられない。コントロールミスをとらえられ、長打にされてしまっているケースが目につく。しかしこれまで適応能力の素晴らしさで売ってきた投手だから、アジャストメントを進め、良い状態に戻っても私は驚かないよ」

 ロイター通信のラリー・ライン記者のそんな言葉にある通り、再びの適応が黒田にとっての鍵となるのだろう。年齢を重ねれば球速、球威、球のキレを少しずつ失うことは仕方なく、それを追いかけても仕方ない。大切なのは、自身の変化を自覚した上で、生き抜くすべを探っていくことである。

上位進出へ 求められる高い適応能力

「スピードは出ないよりも出るにこしたことはないと思いますけど、それよりもボールの動きとか、バッターのタイミングを外したりとか、打者を抑えるにはそっちの方が大事だと思っています」

 19日の試合後にそう語っていた黒田も、もちろん自分のやるべきことを理解しているに違いない。制球の良いムービングファーストボールを有効に使い、同時に経験に裏打ちされた駆け引きで活路を見いだしていく。ファイン記者の言葉通り、もともとその適応能力を武器にトップクラスにまで上り詰めた黒田なら、もう一度力を振り絞ることも不可能ではないはずだ。

 過去4度の先発中3度はクオリティスタート(6回以上を投げて自責点3以下)と、リベンジ開始の予兆は見え始めている。今後も安定し、過去6年間と同様に3点台中盤の防御率を保ってくれれば、チーム打率はメジャー4位と水準以上の得点力を保つヤンキースにとって大きな助けになる。逆にそれが叶わなければ、他の先発投手たちの動向が不確かなだけに、チームの上位進出も難しくなる。

 近況、年齢、今季の年俸などを考えて、黒田にとって今季がニューヨークでのラストシーズンとなる可能性は低くない。海千山千の39歳の“最後の意地”に、ヤンキースの浮沈も密接に関わって来ることになりそうである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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