交流戦限定「全試合DH」の是非 球界に求められる将来への試行錯誤

山田隆道

交流戦は将来の球界への“実験”の場にも

10年目の交流戦を前に会見するソフトバンクと広島の選手たち 【写真は共同】

 そう考えると、この交流戦限定の特別ルールというのは、来年以降も活発化してほしいと思う。そして、それは今季のようなシンプルなファンサービスに終わるだけでなく、日本球界の将来を見据えた“実験”という側面があっても良いのではないか。

 DH制に関して言えば、そもそも交流戦限定で全試合DH制を導入するという試みはどうなのだろう。セとパの実力格差の要因のひとつにDH制の有無があり、それがメジャーでも表れているというのなら、にわかにその方向の試験的導入に興味が湧く。
 
 近年、野球というスポーツが国際化の道を進み、WBCなどの国際試合への適応を目指してボールを統一する(統一球問題は別として)という動きを見せたのなら、このDH制に関しても統一するという議論があっても不思議ではないだろう。第一に、今や国際試合のほとんどがDH制を採用しているのだ。日本でも社会人野球はすべてDH制であり、大学野球も東京六大学リーグと関西学生リーグを除く他の24リーグはすべてDH制だ。したがって、DH制は現代の高レベルな野球においては国際標準ルールであり、むしろDHなしの方が特別ルールだと言えなくもない。NPBの体質を思うと、メジャーがDH制に統一したら「日本もそうしましょう」という話になりそうだが、それはそれで情けない話だ。

セ・リーグが考える「DHなし」の理由

 もちろん、反対派も多いと予想できる。DH制がないことによる野球の戦術的な醍醐味も捨てがたいし、走攻守すべてに取り組んでこそ野球選手だ、という考えを支持する人も多いと思う。実際、セには往年の巨人のエース・桑田真澄、現在では阪神・能見篤史、広島・前田健太のように打力に長けた投手を生んできた歴史もあり、今後大谷のような二刀流が現れる可能性だってある。そういうセならではの野球を楽しみにしている人にしてみれば、DH制が国際標準だからといって機械的に完全導入されてはたまらないだろう。

 ちなみに、75年にパがDH制を採用したとき、一方のセが採用しなかった理由について、NPBのセントラル・リーグ公式サイトでは以下のように記されている。

(以下、抜粋)
1)1世紀半になろうとする野球の伝統を、あまりにも根本的にくつがえしすぎる。
2)投手に代打を出す時期と人選は野球戦術の中心であり、その面白みをなくしてしまう
3)投手も攻撃に参加するという考え方をなくしてしまう。
4)DH制のルールがややこしくファンに混乱をおこさせる。
5)ベーブ・ルースやスタン・ミュージアルは投手から野手にかわって成功したのだが、そのような例がなくなる。
6)仕返しの恐れがないので、投手が平気でビーンボールを投げる。
7)いい投手は完投するので得点力は大して上がらない。
8)投手成績、打撃成績の比較が無意味になる。
9)バントが少なくなり野球の醍醐味がなくなる。
(抜粋ここまで)

求められる試行錯誤、試験的なDH完全導入も……

 同サイトによると、現在も上記のセの考えは大筋では変わっておらず、今後もDH制を導入する予定はないという。もちろん、これはあくまで建前上の理由かもしれないが、球界の現状を考慮すると、上記9項目のうち半分くらいはすでに解決されている、あるいは杞憂(きゆう)に過ぎなかったように思える。

 つまり、結局のところ1〜3についての懸念が論点なのだろう。これらの懸念はわざわざNPBが発表しなくとも、野球ファンならだいたい想像がつくレベルばかりで、確かに完全解決は難しいかもしれない。野球を愛する人それぞれの主観的判断の問題という要素が強いため、いわゆる多数決の必要性を感じさせる。

 しかし、だからこそ“交流戦の期間限定”という試験的なDH制完全導入に魅力を感じてしまうのだ。例えば来季以降、それを交流戦限定で試してみて、もし反対派の声が多すぎれば潔く元に戻す、あるいは再び議論を重ねる。球界の将来を考えると、それくらいの柔軟さはあってもいいと思うのだが。

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著者プロフィール

作家。1976年大阪生まれ。早稲田大学卒業。「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」などの小説を発表するほか、大の野球ファン(特に阪神)が高じて「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。現在、文学金魚で長編小説「家を看取る日」、日刊ゲンダイで野球コラム「対岸のヤジ」、東京スポーツ新聞で「悪魔の添削」を連載中。京都造形芸術大学文芸表現学科、東京Kip学伸(現代文・小論文クラス)で教鞭も執っている。

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