マンネリ感を打破するために 宇都宮徹壱の「初めてのジム通い」第3回

宇都宮徹壱

【イラスト:鈴木彩子】

トレーニングルームで高齢化社会を考える

【Getty Images】

 私のジム通いは週に1回、執筆の合間をぬってウイークデーの14時から16時のタイミングで通っている。あくまで仕事優先。平日の昼のコースを選択したのも、そこが一番安くて空いていると思ったからだ。その時間帯にジムで汗を流している人たちというのは、すでにリタイアしたご老人と子育てを終えた主婦、あるいは私のような自由業の中年男女か夜のお仕事系と思しき30代くらいの女性、といった感じである。たまに若者の姿も見かけるが、比率として少ない。学生さんは、あまりジムに行く必要性を感じていないだろうし、時間はあってもお金を持っているわけでもないから当然なのかもしれない。

 いずれにせよ、トレーニングルームでの平均年齢は、普段私が仕事をしている現場と比べると非常に高く感じられる。さながら、急速に進む日本の高齢化社会の縮図を見ているかのようだ。最近の総務省の発表によれば、日本の65歳以上の高齢者の全人口での割合が25・1%となったそうだ。ついにわが国は、4人に1人が高齢者となる社会となったわけである。

 もっとも、トレーニングルームで見かけるご老人の皆さんは、定期的なトレーニングを続けているだけに、筋肉のメリハリもしっかりしていて、動作もキビキビしている。衰えとか老いといったネガティブな要素は、ほとんど感じられない。そこにいるのは、体調管理と健康増強に余念のない、21世紀の老人たちの姿であった。
 これから未曾有の高齢化社会を迎える中、国民各位が考えるべきは、自身が高齢になった時に自立した生活を送れるだけの体力と筋力を、体が動くうちから蓄えておくことである。換言するなら、体を動かす習慣を体得することであり、そのために自発的にスポーツができる環境を整えることは必定である。もちろん少子化対策も必要だが、それよりもっと手っ取り早い方策が何かといえば、スポーツをより身近なものにすることではないだろうか。そうして考えると、Jリーグが20年以上前から取り組んできた壮大なプロジェクト(※)は、かなり時代を先取りしていたと言っても過言ではないだろう。

体重、骨格筋量、体脂肪量にわずかな変化が

【Getty Images】

 かくいう私も、遅まきながら「初めてのジム通い」をスタートさせたわけだが、問題はそのモチベーションをいかに持続させるかである。正直、2カ月を過ぎた時点で劇的な改善が感じられなかったので、このまま漫然とジムに通うことに漠然とした不安を覚えるようになっていた。

 そこで意を決した私は、スタッフのカウンセリングを受けることにした。対応してくれたのは、小柄な女性スタッフ。何となく、雰囲気がなでしこジャパンの宮間あやに似ているので、ここでは「ミヤマちゃん」と呼ばせてもらう。

 まずは、あらためて体重、骨格筋量、体脂肪量を測定してもらい、どれだけ変化があったのかを確認することにした(カッコ内は2カ月前のデータ。いずれもキログラム)。

・体重=77.9(79.3)
・骨格筋量=34.7(34.5)
・体脂肪量=16.2(16.6)
 体重が1.4キロ、体脂肪量が0.4キロだけ減り、そして骨格筋量が0.2キロだけ増えた。うーん、微妙だなあ。本当は体重を72キロ、体脂肪量についても14キロまで持っていくのが当初の目標であった。なんだかとてつもなく遠い目標のように感じられてしまう。私が軽く落胆していると「骨格筋量が0.2増えて、体脂肪量が0.4減ったのは、2カ月という期間を考えれば十分な成果だと思いますよ」と、ミヤマちゃんがにっこり微笑みながら励ましてくれた。なるほど。ここはひとつ、多少なりともトレーニングの成果はあったと前向きに考えることにしよう。

 問題は、今後もトレーニングを続ける上でのモチベーション維持である。今のままではジムに通っていても、あまり充実感や楽しさが感じられないことをミヤマちゃんに率直に話した。すると彼女は「とてもよく分かりますよ」と頷きながら、トレーニングメニューの見直しを提案してくれた。

「たぶん宇都宮さんの場合、メニューにマンネリ感を抱いているのが原因かと思います。ですので、より効果的に筋力を付けながら、あまり飽きが来ない形で有酸素運動ができるように、メニューを組み直してみましょう」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)、『日本代表の冒険』(光文社)など著書多数。『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した。2010年より有料メールマガジン『徹マガ』を配信中。Twitter:tete_room

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