渡部香生子を栄冠に導いたコーチの言葉=競泳日本選手権第3日

スポーツナビ

女子200メートル個人メドレー決勝 2分11秒04で2連覇した渡部香生子=東京辰巳国際水泳場 【共同】

 久しぶりに“かなこスマイル”が弾けた。競泳の日本選手権第3日は12日、東京・辰巳国際水泳場で行われ、17歳の渡部香生子(JSS立石)が200メートル個人メドレーで2分11秒4をマークし、大会連覇を果たした。渡部は大会第1日の100メートル平泳ぎでも、予選でマークした自身の高校新記録をさらに上回る1分6秒53で優勝。今大会、第3日を終えて、2冠に輝く活躍を見せている。

結果よりもうれしい“自分越え”

 100メートル平泳ぎ決勝は、隣を泳ぐ第一人者の鈴木聡美(ミキハウス)を0.55秒差で抑えての栄冠だった。

「(優勝は)うれしいんですけど、予選で(1分)6秒が出たことの方がうれしいです」

 優勝のタイトルより“自分越え”を喜ぶその言葉の裏には、もがき続けたこの1年の思いが詰まっていた。この種目の渡部の自己記録「1分7秒10」は、中学3年生だった2011年のジャパンオープンで出したものだ。その翌年の12年にはロンドン五輪出場も果たし、渡部は一躍脚光を浴びる存在となった。

 ところが、その後、歯車が狂い始める。体の成長からくる「泳ぎの感覚のズレ」に苦しむようになると、専門とする平泳ぎでも結果が出せなくなった。昨年の日本選手権では、200メートル個人メドレーこそ制したが、200メートル平泳ぎでは決勝にすら進めなかった。さらに同年7月の世界選手権(スペイン・バルセロナ)でも、200メートル個人メドレーで当時の自己ベストを出したものの、100メートル平泳ぎは予選敗退。安定したパフォーマンスが発揮できない時期が続き、次第に気持ちも沈んでいった。

「苦しい時は“スマイル”」

 あれから1年――。再び渡部が浮上できたのは、昨年5月から師事する竹村吉昭コーチのおかげだ。かつて中村真衣らを育てた名将は、苦しむ渡部を見て、力はあるのにそれが発揮されないのはメンタルの問題と分析。コミュニケーションを取ることで問題の解決を図っていく。

「できるだけ会話があった方がいい」と、食事中はもちろん、朝の散歩でも積極的に対話を続けた。うまくいかないレースがあれば、その原因を二人でとことん話し合った。また、感情がすぐ顔に出てしまう渡部に対して「苦しい時に嫌な顔をしないこと。苦しい時は“スマイル”」と何度も語りかけたという。

 そういった小さな積み重ねのひとつひとつが、少しずつ渡部の心を動かしていった。

「普段の練習から、明るい気持ちで取り組もう」

 ポジティブに変わっていった結果、浮き沈みの激しかった渡部は、気分を安定させられるようになっていった。今では「逆にいい経験をしたんじゃないかな」と思えるまでになったという。

 渡部の失われていた自信は、練習内容の変化で少しずつ取り戻していった。

「しっかりと練習したら、結果はついてくるということをやりたい」(竹村コーチ)

 結果が出せなくなっていた平泳ぎでは、ストローク数を数えながら泳ぐ練習など、泳ぎが安定するようなトレーニングを積んだ。また、冬場には「今までにないくらい」(渡部)のレース数をこなし、その中で課題を一つずつ克服。さらに、スタートやターンといった細かな技術にも磨きをかけていった。

混戦の200メートル平泳ぎにも自信

 それらの成果が結果として表れるようになったのは今年に入ってからだ。2月の日本短水路選手権では200メートル個人メドレーで2分6秒39の日本新記録をマーク。翌月のニューサウスウェールズ州選手権(オーストラリア・シドニー)でも、同種目の日本新記録となる2分10秒65で泳いだ。そして、好調を維持したまま迎えた今大会での2冠達成。ロンドン五輪以降、苦しみ続けたのが、うそのように好結果を連発している。

 大会最終日の13日には、今年最も力を入れている200メートル平泳ぎが控える。11日の50メートルを日本新記録で制した鈴木らライバルも好調とあって、接戦が予想される。「200の平泳ぎは記録よりも勝負だと思うので、しっかり勝負にこだわれば、3冠もついてくる」と渡部。自信を取り戻した17歳の成長は、止まりそうにない。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)
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