渡部香生子を栄冠に導いたコーチの言葉=競泳日本選手権第3日
女子200メートル個人メドレー決勝 2分11秒04で2連覇した渡部香生子=東京辰巳国際水泳場 【共同】
結果よりもうれしい“自分越え”
「(優勝は)うれしいんですけど、予選で(1分)6秒が出たことの方がうれしいです」
優勝のタイトルより“自分越え”を喜ぶその言葉の裏には、もがき続けたこの1年の思いが詰まっていた。この種目の渡部の自己記録「1分7秒10」は、中学3年生だった2011年のジャパンオープンで出したものだ。その翌年の12年にはロンドン五輪出場も果たし、渡部は一躍脚光を浴びる存在となった。
ところが、その後、歯車が狂い始める。体の成長からくる「泳ぎの感覚のズレ」に苦しむようになると、専門とする平泳ぎでも結果が出せなくなった。昨年の日本選手権では、200メートル個人メドレーこそ制したが、200メートル平泳ぎでは決勝にすら進めなかった。さらに同年7月の世界選手権(スペイン・バルセロナ)でも、200メートル個人メドレーで当時の自己ベストを出したものの、100メートル平泳ぎは予選敗退。安定したパフォーマンスが発揮できない時期が続き、次第に気持ちも沈んでいった。
「苦しい時は“スマイル”」
「できるだけ会話があった方がいい」と、食事中はもちろん、朝の散歩でも積極的に対話を続けた。うまくいかないレースがあれば、その原因を二人でとことん話し合った。また、感情がすぐ顔に出てしまう渡部に対して「苦しい時に嫌な顔をしないこと。苦しい時は“スマイル”」と何度も語りかけたという。
そういった小さな積み重ねのひとつひとつが、少しずつ渡部の心を動かしていった。
「普段の練習から、明るい気持ちで取り組もう」
ポジティブに変わっていった結果、浮き沈みの激しかった渡部は、気分を安定させられるようになっていった。今では「逆にいい経験をしたんじゃないかな」と思えるまでになったという。
渡部の失われていた自信は、練習内容の変化で少しずつ取り戻していった。
「しっかりと練習したら、結果はついてくるということをやりたい」(竹村コーチ)
結果が出せなくなっていた平泳ぎでは、ストローク数を数えながら泳ぐ練習など、泳ぎが安定するようなトレーニングを積んだ。また、冬場には「今までにないくらい」(渡部)のレース数をこなし、その中で課題を一つずつ克服。さらに、スタートやターンといった細かな技術にも磨きをかけていった。
混戦の200メートル平泳ぎにも自信
大会最終日の13日には、今年最も力を入れている200メートル平泳ぎが控える。11日の50メートルを日本新記録で制した鈴木らライバルも好調とあって、接戦が予想される。「200の平泳ぎは記録よりも勝負だと思うので、しっかり勝負にこだわれば、3冠もついてくる」と渡部。自信を取り戻した17歳の成長は、止まりそうにない。
(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ