代表候補合宿で見えたサプライズの条件 求められる順応性とユーティリティー性

宇都宮徹壱

フィールドプレーヤー全員に45分のチャンス

先制ゴールを決めた川又。「今日のゴールをこれからの試合につなげていきたい」 【宇都宮徹壱】

 果たして、23名の最終メンバーに滑りこむのは誰か?
 4月7日から9日にかけて、千葉県で行われた日本代表候補合宿の最終日を取材してきた。初日はリーグ戦での疲労を考慮した軽めのメニュー、2日目は実戦形式の練習と紅白戦、そして最終日となるこの日は流通経済大学を相手に45分ハーフの練習試合を行った。今回の招集メンバーは、フィールドプレーヤーのそれぞれのポジションに2名ずつ招集されており、前半と後半でメンバーを総入れ替えすることで、全員が45分の出場機会を得た。前半と後半の出場選手は以下のとおり。イメージしやすいように、4−2−3−1のラインに選手名を当てはめてみた(いずれのポジションも右からの並び)。

【前半】
GK:権田修一(33分で東口順昭に交代)
DF:今井智基、昌子源、山下達也、安田理大
MF:長谷川アーリアジャスール、青山敏弘
MF:工藤壮人、高萩洋次郎、齋藤学
FW:豊田陽平

【後半】
GK:東口(16分で林彰洋に交代)
DF:塩谷司、鈴木大輔、水本裕貴、槙野智章
MF:高橋秀人、柴崎岳
MF:石原直樹、原口元気、南野拓実
FW:川又堅碁

 なお後半のポジションについては、塩谷と鈴木、南野と原口がそれぞれ20分にポジションチェンジしている。その意図についてアルベルト・ザッケローニ監督は「事前にチェンジするのは決めていた。塩谷と鈴木は右もセンターもできるし、原口と南野も同様のことが言える」と説明している。

メンバー入れ替えに込められた指揮官の意図

 ところでこの日のメンバー分けは、前日の紅白戦を取材していた記者たちに戸惑いを与えることとなった。というのも、ディフェンスラインの並びは同じだったものの、ワントップとトップ下、そしてボランチの組み合わせがまったく違ったものになっていたからだ。あえてメンバーを固定せず、それぞれ同じだけのチャンスを与えているところを見ると、今回の23名の序列はそれほど明確になっていないようだ。なお、このメンバー入れ替えについて、指揮官はこう語っている。

「それぞれの所属クラブであれば、チームメートとのコンビネーションもスムーズだろう。では不慣れな選手同士で、どれだけのコンビネーションが見られるか。今日できたことを評価するのではなく、彼らが何をしようとしたのか、そしてこの3日間で何ができたのか。そういったところを重点的に見てみたかった」

 実際のところ、前半は急造チームゆえのコンビネーション不足が目についた。右の工藤、左の齋藤がたびたびクロスを供給するが、前線の豊田との呼吸が合わない。逆に流経大に幾度もチャンスを作られ、権田のセーブと相手のシュートミスに救われる危ういシーンも見られた。前半は0−0で終了。国際Aマッチの経験がある選手たちは、それぞれ随所に光るプレーを見せてはいたが、その攻撃は散発的なものに終わってしまった。

 メンバーが入れ替わった後半は、後方から縦方向に正確なパスが入るようになり、さらにボランチの柴崎も「前からどんどんチャレンジしてほしい」という監督の指示を忠実に実行したことで、目に見えて攻撃が活性化する。ワントップの川又も「自分が動き出すタイミングでボールが来る」という感覚に躍動した。そして後半30分、右サイドを駆け上がった鈴木のクロスに、川又がうまく左足ボレーで先制点をゲット。その5分後には、柴崎が放った山なりのパスを南野が頭で合わせ、相手DFがクリアミスしたところを再び南野が詰めて追加点を挙げる。試合はそのまま2−0で終了した。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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