厳しめジャッジも、光った実力、新しい力=澤田亜紀の世界フィギュア女子解説

構成:スポーツナビ

村上、見せた“新しい村上佳菜子” 羽生も刺激に?

しっとりとした演技で“新しい佳菜子”見えた村上 【坂本清】

 村上選手は採点表を見ると回転不足が目立ちますが、見た目はノーミスのような演技でした。今季は前半が調子が上がらなかったのですが、今大会は自信を持って迎えているように見えました。いつもは不安や緊張が演技前の顔に出ていることもあるのですが、今回はリラックスしていて、ちょうどいい緊張感で臨んでいるような表情でした。ダブルアクセルはいつもよりも幅が出なくて詰まってしまったのでそこは少しもったいなかったですね。後半の3連続ジャンプの2つ目に回転不足が付いていますがこれは珍しいです。得点は1.1倍になるものの疲れの出る後半に3連続ジャンプを入れて、それを実行できるのは攻めの姿勢の表れだと思います。

 今回は全体的に採点が厳しめだったこともあり得点は伸びなかったかもしれませんが、内容はどの選手も良かったです。村上選手も点数を見て残念そうでしたが、演技自体は村上選手の世界観が見えました。これまでは元気の良さが村上佳菜子らしさでしたが、しっとりとした演技で“新しい佳菜子”が出せたと思います。村上選手は、昔は体が小さかったので(現在は161センチ)、そのときにどうにか演技を大きく見せようとしていた工夫が、今に生きているのかもしれません。手足を長く見せる演技で、指先までしっかりと気を付けて、柔らかな動き。ステップはレベル4、スピンでも1つを除いてレベル4をとっていました。

 12月の全日本選手権、1月に優勝した四大陸選手権、2月のソチ五輪と1か月ごとに大きな試合に出ていました。試合後に「1シーズンで5歳くらい年をとったような気がする」と今季を振り返っていたようですが、グランプリシリーズ2大会と合わせて、大会に出るごとに1つずつ年をとったのかもしれませんね(笑)。大きな試合が終わると、それまで積み上げてきたものを一気に使ってしまいます。五輪が終わって充電期間も短いなかでよく合わせたと思います。こんなにハードな経験をするのは4年に1度だけ。いい経験かもしれませんね。
 それから、村上選手はソチ五輪男子シングル金メダルで今大会も制した羽生結弦選手と同い年です。ジュニア時代の09年ジュニアGPファイナルや10年の世界ジュニアでは、男子を羽生選手が、女子を村上選手が優勝しました。村上選手も羽生選手が新しく4回転サルコウを跳んだと聞くと、自分も新しいジャンプをと思うようで、お互いにいい刺激になっているようです。

リプニツカヤはやや焦り? コストナー、ミス出るもさすがの表現力

2位のリプニツカヤは「やや焦って滑っているような印象」(澤田さん)だった 【坂本清】

 2位のリプニツカヤ選手は全体的にやや焦って滑っているような印象を受けました。前半はいつもどおりのリプニツカヤ選手でしたが、1本のジャンプで転んでからの後半は演技、表現よりもジャンプに意識がいってしまったような印象です。ただ脚をほぼ一直線に上げて回転する“キャンドルスピン”などの柔軟性はあまりにしれっとやるので、驚かなくなってしまうくらいです。ジャンプにはミスもありますが、表現は得点がある程度一定なので、その表現をさらに伸ばせる柔軟性を持っているのは、ジャンプを失敗したときの強みになると思います。

 3位のコストナー選手は、ジャンプが1回転になってしまう部分があるなど、五輪が良い演技だっただけに残念でした。でも声援も聞こえたでしょうし、ステップの場面で切り替えていましたね。ステップの出来栄え評価は、審判全員が「3」で最高の評価。その次のコレオシークエンスでも加点が付いています。
「ボレロ」のようなクラシック音楽は、解釈に正解がないので表現が難しいんです。でもコストナー選手はすごくしっかり表現しています。演技構成点のうち、振り付けの評価では最高の「10点」を付けている審判も9人中2人いますね。10点が付くことはなかなかなくて、今回の浅田選手は「スケートの技術」と「曲の解釈」の項目でそれぞれ1つの10点評価をもらっていますが、そのほか今回の女子フリーに出た23選手では10点評価をもらった選手はいません。ジャンプは残念な部分もありましたが、作品としては良かったと思います。ジャンプのミスがあると、表現に気持ちが行き届かず“素”に戻ってしまうこともありますが、そうならずにしっかり演技を続けていました。

女子は世代交代へ 伸びる米国、ロシア女子

 今大会はどの国も世代交代を感じさせました。4位に入った、ロシアの15歳アンナ・ポゴリラヤ選手も、ソチ五輪金メダルの17歳アデリナ・ソトニコワ選手の“補欠”として出ましたが、上位に入ってきました。また米国の18歳グレーシー・ゴールド選手、15歳ポリーナ・エドモンズ選手も今後が楽しみです。ゴールド選手はランディング(ジャンプ着氷とその流れ)がきれいで、手の使い方も上手く、上品で優雅なスケートをします。もっとジャンプの安定感が出ればもっと上にいけると思います。それから韓国のパク・ソヨン選手もぐんと成長してきていますね。キム・ヨナ選手を目標にしてきたかと思いますが、雰囲気は似ているような気がします。目標にしてきた選手の得意技は似るようになるのかもしれません。

 この大会を終えて、29歳になったばかりの鈴木選手は引退です。この年齢まで日本のトップに居続けられたことは本当にすごいです。お疲れ様でしたと言いたいです。浅田選手は今後は未定、村上選手は来季も現役を続けるということですが、まずはお疲れ様ですと。ご飯にでも行けたらいいなと思います。

<了>

澤田亜紀/Aki Sawada

1988年10月7日、大阪府大阪市生まれ。5歳でスケートを始め、ジュニアGP大会では優勝1回を含め、6度表彰台に立った。シニアでは2004年全日本選手権で、安藤美姫、浅田真央、村主章枝に次ぐ4位に入り、07年四大陸選手権でも4位の成績を残した。5つの3回転ジャンプを跳ぶなど力強いジャンプが持ち味。トレードマークとも言える、氷上での明るい笑顔も人気を呼んだ。11年に現役の第一線を退き、現在は関大を拠点にコーチとして活動している。

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント