町田樹が兼ね備える2つの特別な才能=表現者かつ競技者として目指すこと

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競技者として結果にもこだわる

町田はソチ五輪で5位。悔しさを感じるとともに収穫もあったと振り返る 【Getty Images】

 もちろんアスリートとして、町田は結果にもこだわる。SP終了後、98点台という高得点に喜びながらも、「この取材が終わったら、幸せな気持ちを捨てます」と、頭を2日後のフリースケーティング(FS)に切り替えていた。

 ソチ五輪では、悔しさを感じると同時に収穫もあった。
「五輪に出場してみて気付いたことは、町田樹というスケーターは五輪や世界選手権でメダルを取るにふさわしいスケーターであると、国際ジャッジや世間の皆さんが評価してくれたことです。それに対して素直にうれしく思うし、自信にもなりました」

 五輪では5位と不本意な結果に終わった。だからこそ、町田は世界選手権に懸けている。そしてその言葉通り、まずはSPで自己ベストをたたき出した。あとはFSでも同様の演技を披露するだけである。それができれば、おのずと金メダルは町田の手に収まることだろう。「千載一遇のチャンスですし、2度とこのような機会はないと思うので、全力で狙っていきたいです」。町田自身も金メダルに対する思いを隠さない。

 わずか1年前、町田は“第6の男”だった。ソチ五輪の出場権を争う有力選手6人の6番目という立ち位置。道のりは遠かった。しかし拠点を日本に戻し、大学に復学するなど、あえて厳しい環境に身を置くことで、精神的な強さを手に入れた。「ソチ五輪に行くのは僕」と公の場で発言することによって、自身にプレッシャーをかけ、成長を促してきた。そして今季のテーマとしていた「ティムシェル」(編注:ヘブライ語、自分の運命は自分で切り開くという意味)という言葉を見事に有言実行。五輪の切符を勝ち取った。アーティスティックな一面とともに、競技者としてのメンタルも併せ持っているのが町田樹という選手の大きな特長だ。

ベストの『火の鳥』を演じれば……

 FSの『火の鳥』は昨シーズンから演じてきたプログラム。『エデンの東』と同様、今大会がおそらく“最終公演”となる。ロシアの巨匠、イーゴリ・ストラヴィンスキー作曲の同曲に対しては、町田にとっても特別な思い入れがある。「ソチ五輪が開催されるロシアで『火の鳥』を演じ、自分も飛翔したい」。五輪前はそう願っていたが、その夢はかなわなかった。今大会を雪辱の舞台と捉えている。

 2位のハビエル・フェルナンデス(スペイン)とは1.79点差、3位の羽生とは6.97点差と、まだまだ安泰とは言えない。1つのミスで逆転される可能性は十分にあるだろう。五輪チャンピオンの羽生は、久しぶりに訪れた追いかける展開を「楽しみ」と語っており、不敵な笑みを見せている。

 町田自身も追われる者としての立場をわきまえている。
「最後の最後まで何があるか分からない。気を引き締めて、98点というスコアも忘れ、フリーに向けて冷静に頑張っていきたいと思います。2年間、『火の鳥』を演じているので、これまでで1番の『火の鳥』を皆さんにお届けして、自分の中でも完結させたいと思っています」

 表現者として、競技者としてベストの『火の鳥』を演じることができれば、頂点への道は開けてくる。そしてそのとき、町田は氷の舞台上でどのような姿を見せるのか。今から期待せずにはいられない。

<了>

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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