なぜパラリンピックの放送は少ないのか=テレビとの関係から知る今後の可能性

スカパー!

1人のアスリートとして敬意を

夏季パラリンピックの正式種目であるボッチャ。写真はロンドン大会で行われた日本対香港戦 【写真:アフロスポーツ】

 パラリンピックに関するSNSには、「(日本テレビの)『24時間テレビ』を放送するならパラリンピックも放送してほしい」という投稿もあります。今回のテーマを論じるのに非常に参考になる意見です。『24時間テレビ』はホームページにも記されてある通り、福祉番組です。事故や難病による障害はもちろん、貧困、災害、戦争紛争などで普通の生活さえ困難になっている国内外の方々やその事象に対して、おのおのが募金を含め何かできることがないかを考え、行動する、そのきっかけ作りをテレビ放送を通じて行っているものです。

 ただし、一言で障害者といってもいろいろな方がいます。パラリンピックレベルで競技スポーツに打ち込んでいる方、リハビリやレジャーとしてスポーツをされている方、スポーツなど論外で緊急的に支援が必要な方、健常者にもいろいろな方がいるのと全く同じです。しかし、我々は障害者に対して、障害があるかないかだけが唯一の判断になってはいないでしょうか。

 パラリンピックに出場している選手は、仕事をして、結婚をして子供がいる人もいます。その上で世界と戦ってメダルを目指しています。彼らの悩みや困っていることといえば、どうすれば速くなれるか、相手に勝てるか、本番で力を発揮できるかであり、どうすればより良い練習環境や優秀なコーチ、多くのスポンサーを見つけられるか、ということです。まさにアスリートなのです。

 費やしている時間や情熱も健常者のトップアスリートと何ら変わりません。何より、彼らがそれを望んでいます。もちろん、このステージまでたどり着くのに、想像を絶するほどの道のりがあったことは間違いないのですが、取材をすると、どの選手も障害や家族のことだけではなく、技術や戦略、用具や練習方法のことを聞いてほしい。新聞の社会面ではなく、スポーツ面に載るようになりたい、と言います。

 障害者の中にもいろいろな人がいることを知り、それぞれの方々に応じて何ができるかを考えた時に、われわれがパラリンピアンたちにできることの第一歩は、アスリートとして敬意を払うことではないでしょうか。そして、パラリンピックと比較される番組が「24時間テレビ」ではなく、プロ野球やサッカーやゴルフに変わっていけば、日本のスポーツ文化が一段上に上がった証しになるのではないでしょうか。

東京パラリンピックの会場は満員になるか

 実は冒頭の2つのテーマは、パラリンピックを担当する際に最初に私に与えられたテーマであり、この先も最大のテーマになっていくものです。当初、パラリンピックを勉強し多くの選手を取材し始めて、スポーツとして、アスリートとして、何とか伝えられそうだと感触をつかんだ時にボッチャの存在を知りました。同時に「もしかしたらボッチャだけは無理かもしれない」。正直、そう思いました。実はそれを確認するために09年のアジアユースパラゲームズに取材に向かったのです。そして、“あの言葉”で、確認どころか、スポーツの魅力の再確認までさせてもらいました。

 20年東京五輪・パラリンピックが大成功だったと評価されるためには、パラリンピックの各会場が満員になることが1つの基準になると考えます。08年北京大会も12年ロンドン大会も満員でした。北京は政府が動員をかけたためということでしたが、ロンドンは明らかに一般市民が会場の外にまで行列を作っていました。果たして、東京はロンドンのようにいくのでしょうか。そのキーポイントが、スポーツの魅力とアスリートとしての敬意になると思いませんか。

<了>

(文・渡部康弘)

渡部康弘
1972年、山形県生まれ スカパー!の障害者スポーツ初代プロデューサーとして車椅子バスケットボールをはじめとした各種競技のスポーツ中継を実現。パラリンピックは2008年北京、12年ロンドンの2大会の放送を担当。生中継を中心に全競技を中継するソチパラリンピックでは宣伝・プロモーションの統括として現在オンエア中のテレビCMなどを手掛ける。

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