仮設住宅があるグラウンドで――志津川高野球部が迎えた特別な卒業式

篠崎有理枝

臨時バスにより生徒数が減っていく現状

仮設住宅が建つグラウンドの横で野球部は練習を続けている 【篠崎有理枝】

 志津川高野球部は、“志津川旋風”と呼ばれた1975年の快進撃や、強豪の仙台商業高、東陵高を破るなど、力のある学校として知られていた。しかし、現在、野球部の部員数は年々減少している。思うように野球に打ち込めない状況と、生徒数自体の減少が影響している。

 志津川高の最寄り駅、JR気仙沼線の志津川駅は津波で流出した。鉄道に代わり運行されるようになった臨時バスは、高速バスをはじめ、多方面へ運行されているため、いろいろなところに行けるようになった。それを利用し、生徒たちは隣接する市の進学校など、行きたい学校を選べるようになった。

「中学校の生徒たちに直接『野球部に入ってよ』って声をかけるんですけど、なかなかね……」
 松井監督は寂しそうに語った。

横浜高、横浜隼人高、兵庫の高校も…広がる交流

 震災後、志津川高校野球部には、全国からたくさんの野球用品が送られてきた。強豪校の横浜高とも交流があり、昨年末には横浜隼人高との練習試合も行われた。松井監督は横浜出身。そんな縁がつないでくれた出会いだった。

「志津川はどこにあるのか、被災地はどうなっているのか。知らない生徒たちが多いから連れてきた」と、年末には兵庫県の三木北高野球部も志津川高を訪問してきた。
「こういうところで頑張っている学校もあるんだ。ということを知らせたい」という監督の思いからの行動だった。阪神・淡路大震災を経験した兵庫県の学校は、熱い気持ちを持って交流してくれているという。

 反面、被災地の状況が伝わっていないと実感することもあるそうだ。松井監督は先日、日本高校野球連盟による講習会に参加した。その時、多くの人から被災地の状況を聞かれた。
「『被災地どうなっているんだ?』と聞かれ、生徒たちが置かれた状況を話すと、みんな驚きますね。その話を聞いて学校に来てくれる人もいるんですよ。こういう状況だと思っていないんですよね。どうにかなっているんだろうと思っている人が多いんです。志津川の状況や思っていることは発信しないと伝わらない。この何もない状況を見てくれるだけで、それでいいと思うんです」

2/3ページ

著者プロフィール

東京都狛江市出身。川村学園女子大学卒業。学生時代からプロスポーツチームで刊行物の編集に携わる。 卒業後は、スポーツ新聞社、雑誌社に勤務。現在はフリーで執筆活動を行う。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント