東大、青学…「一流大学」から独立Lへ―野球を「諦めない」男たちが見る夢

高木遊

「このまま負けたまま終わりたくはない」

渡邉は「ジェフ・ウィリアムズのように」と変則フォームを手に入れ、NPB入りを目指す 【写真提供:青山学院大学硬式野球部】

「自分の中では誰よりも野球のことを考えて、練習も人よりやってきたという自負があるので、試合に出られなかったのは悔しかったし……このまま負けたまま終わりたくはないんです」

 青山学院大学からBCリーグ・新潟アルビレックスに入団した渡邉雄大(ゆうた)は、野球をする者なら誰もが憧れる聖地のマウンドを目の前にしながら、いまだそこに登ることを許されていない。

 2009年夏、新潟県勢初の決勝進出を果たし、さらにその舞台で9回2死からの大追撃を演じて甲子園球場を揺らした日本文理高。高校野球ファンの中に鮮烈な記憶として刻まれた同校の躍進をただただ悔しく眺めることしかできなかったのが、中越高のエース左腕・渡邉だった。

 春季新潟県大会で0対3で敗れながらも、評判の高かった日本文理高打線を相手に好投を演じた左腕には多くの注目が集まり、名門・青山学院大学の進学もこの春で決めた。好敵手に対し、ある程度の手応えを持って臨んだ夏の県大会決勝。渡邉は降りしきる雨の中で制球が定まらず、初回1死から日本文理高打線に5連打を浴び降板。その後再登板こそしたものの、初回に7点を奪われた中越高は4対12のスコアで敗戦。高校生最後の夏の結果は渡邉にとって残酷なものとなった。

追求した打ちづらいフォームと球筋

 青山学院大学は全国屈指の実力を誇る東都大学リーグで優勝12回、日本一4回を誇る名門。リーグ戦の使用球場は、“学生野球の聖地”神宮球場。球場こそ違えど、ここで起用されることがすなわち、高校時代に果たせなかった聖地に足を踏み入れることだった。
 だが4年間彼は、神宮のマウンドに足を踏み入れることができなかった。出場試合数はゼロ、ベンチ入りは1試合のみ(優勝の可能性が無くなった4年秋の最終戦)だった。
 厳密に言えば、神宮のマウンドには1度上がっているのだが、それは公式戦ではなく「各部交流戦」という公式戦のブロックとは関係なく行われる秋季リーグ前の“準公式戦”。相手は3部リーグ所属の上智大学で、公式戦ではないため応援団もおらず、客足もまばらな“聖地であって聖地ではない”場所だった。

 もちろん、渡邉は4年間ただ手をこまねいていたわけではない。試合に出るための試行錯誤を繰り返した。高校時代はやや斜め上からの投球だったが、2年の冬にさらに腕を下げたサイドスローへ転向。全国から集まる猛者たちの中で這い上がるため、打ちづらいフォームと球筋を追求した。
 公式戦でその真価を見せることは4年間できなかった。だがそれでも、練習場のブルペンで見た彼の球には「面白い」とうならせるものがある。
 マネージャーとして4年間、渡邉を見てきた佐藤隼人も「あいつのスライダーがすごい時には、面白いように曲がりますよ」と話すように、隠し持つ武器にはチームメートも太鼓判を押す。
 渡邉はやや照れながらも「理想は阪神にいたジェフ・ウィリアムズ。あんな風に1イニングをバシッと抑えたい」と語った。
 1チーム年間72試合のリーグ戦を行うBCリーグで、変則左腕が重宝される可能性は大きく、さらに試合数が「144」へと増えるNPBでは貴重な戦力となりえる。
 4年間遠ざかってしまった「公式戦の実戦感覚」に不安が無いといえば嘘になるが、渡邉は「今だから挑戦できること、1日1日が勝負なので全力で取り組みたい」と前向きに話す。

 今度こそ「憧れのマウンド」に登るため、故郷・新潟で再び腕を磨く日々が始まった。次なる“憧れ”はNPB、何万人もの視線が注がれるマウンドだ。これまで聖地に届かなかった渡邉だが、長い助走を取ってきた渡邉だからこそ、その先には大きな未来が待っているはずだ。

戦い続ける「諦めの悪い奴」

 井坂も渡邉も悔いの残る4年間だったのは間違いないが、悔しさは力を出せなかった自分に対してのもの。だからこそ彼らは顔を上げ続け、なんとか現状を打破しようと今ある現実に抗ってきた。

 周囲から見れば彼らは「諦めの悪い奴」かもしれない。「もっと良い道があるのに」と口を挟みたくなってしまうかもしれない。だが、そんな彼らだからこそ見ることができる夢、見せられる夢がある。それは彼らが戦い続ける限り、「諦めない」限り終わることはないだろう。

<了>

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著者プロフィール

1988年、東京都生まれ。幼い頃よりスポーツ観戦に勤しみ、東洋大学社会学部卒業後、スポーツライターとして活動を開始。関東を中心に全国各地の大学野球を精力的に取材。中学、高校、社会人などアマチュア野球全般やラグビーなども取材領域とする。

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