最後のトリプルアクセル…感謝を込めて 涙のあとに最高の“真央スマイル”

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これまで支えてくれた人たちに感謝を

演技終了直後、感情が込み上げ涙が頬をつたう。歴史にも記憶にも残るラストダンスとなった 【写真:アフロ】

 気持ちが吹っ切れた浅田は選手村に帰ってからは自然体で過ごした。午前中は満足な練習ができなかったこともあり、トレーニングで体を動かし、昼寝をしてから赤飯を食べて会場入りした。すでに覚悟は決めていた。「自分の中で最高の演技をしよう」。たとえメダルを取れなくても、これまで自分を支えてくれた人たちに感謝の気持ちを表したかった。そして最後は笑って終わろう。

 SP後、ショックに打ちひしがれた浅田のもとにはたくさんの励ましメールが届いた。その中にあったのは「真央の笑顔が見たい」というものだった。多くの人を魅了する屈託のない“真央スマイル”。それが一度も今大会は出ていなかった。

 かつての同志もツイッターなどで温かい言葉を贈った。昨年末の全日本選手権後に引退した安藤美姫さんは「トリプルアクセルに挑む姿は本当に凄いと思います。優雅な彼女にしかできない雰囲気を魅せてくれました。悔いなく自信を持って滑って輝けますように!!! 考え過ぎず小さい頃のように」とエール。2度の五輪出場経験を持つ村主章枝も「今までずっと努力してきた形がフリーのプログラム。だから、その作品をきちんと見守ってあげよう」とつづった。

 そうした思いを背に受けて臨んだFS。今季一度も成功していなかったトリプルアクセルを、4年前のバンクーバーに続き、五輪という大舞台で再び成功させた。6種類のトリプルジャンプに挑戦し、転倒なく跳び切った。スピンでもすべてレベル4を獲得。「自分が目指していた演技」をやり切り、自身最後となるであろう五輪を締めくくった。

トリプルアクセルで歴史に名を刻む

 結果的には金メダルはおろか表彰台にすら手が届かなかった。それでも、この4年間の努力は決して否定されるものではないだろう。五輪で勝つためにはトリプルアクセルを捨てるべきだったという見方もある。今大会で優勝したソトニコワと2位のキム・ヨナ(韓国)が跳んだ3回転ルッツ−3回転トゥループの基礎点は10.10点。それに対し浅田のトリプルアクセルは8.50点だ。失敗するリスクを考えれば、ほかの要素を磨くべきだったという批判は付きまとうかもしれない。

 しかし、佐藤コーチはそれを受け入れた上でこう語る。
「コーチとしてトリプルアクセルを入れるのが良いのか悪いのか、もっと冷静に考える必要があると思っています。でも彼女の夢なんだから、何を言われようと最後まであきらめずにやらせてあげようと心を鬼にしていました。それで今回は跳べたということで良かったと思っています」

 女子選手として五輪2大会連続でトリプルアクセルを成功させたのはもちろん史上初。金メダルは手にできなかったが、再び歴史に名を刻んだ。「今まで支えてくれた皆さんに、メダルという形で残すことはできなかった。恩返しするためにあと残されたのは自分の演技だけだと思ったので、最高の演技ができて良かったと思います」。ソチで挑んだラストダンス。苦しみに打ち勝った浅田が、涙のあとに見せたのは最高の“真央スマイル”だった。

<了>

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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