氷の哲学・町田樹を支える“言葉の力”=宇宙へ飛べ火の鳥!個人FSは『大飛翔編』

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今季の町田を表す代名詞「ティムシェル」

ソチでも“町田節”は健在だ 【写真は共同】

「ソチ五輪に行く」という目標をシーズン前から言い続け、見事にそれを達成した町田。まさに有言実行を地で行った形だが、町田は言葉の持つ力というものを信じている。大学では哲学を専攻し、遠征先には必ず数冊の本を持参する。今季はショートプログラム(SP)に『エデンの東』を使用しているが、その原作に出てくる「ティムシェル」という言葉に感銘を受け、自身のテーマとした。ヘブライ語で「汝、意思あらば、可能ならん」という意味を表す言葉だが、町田は原作を読み込むことでこれを「自分の運命は自分で切り開く」と解釈。そしてこの「ティムシェル」という言葉こそ今季の町田を表す代名詞となっている。

 言葉には意志が宿る。それを知っているからこそ、町田は自分の表現にこだわる。「氷上の哲学者」という呼び名がメディアで定着し、「町田語録」なるものが取り上げられるのも、その表現があまりに独特で、多くの人の関心を呼ぶからだろう。

 この日も町田節は健在だった。
「今回は『火の鳥』を2回踊る機会があります。僕は題名をつけているんですよ。1回目は『火の鳥 再臨編』、そして個人戦が『火の鳥 大飛翔編』です。ソチであったGPファイナルの大敗があったので、もう1度ここに僕の火の鳥を再臨させるという意味でこの1回目の火の鳥を演じたつもりです。そして次は聖火とともに宇宙まで飛んでいけたらいいと思います」

 もちろん本人は至って真面目だ。以前、試合に向けた抱負を聞かれ「エタノールを燃やしたときに出る透明な炎のような見えない闘志を内に秘めて臨みます」と答えたこともあるが、こうしたユニークな表現が多く出るのも、豊富な語彙力を備えている証拠だろう。

「宇宙にまで飛び立つ演技」を

 言葉の力が町田を支え、町田を形成する。独特な表現が注目を集めがちだが、自分の目標や気持ちはストレートに伝える。ソチ五輪の目標を尋ねたところ、ほかの選手が「自分のベストを尽くす」といった答えに終始するなかで、町田だけははっきりとこう宣言した。

「僕だけに限らず、出場権を得た選手はメダルを目指さなければいけないと思います。日本の層の厚さはかつてないことで、誰が出てもおかしくない。そのなかで出場権をいただけるわけなので、出られなかった選手に失礼がないようにしなければいけない。出場できなかった選手でも五輪に出る能力、メダルを取る能力だってある。選ばれた選手はメダルを狙いにいかなければいけないし、それが使命であり、義務だと思います」

 今季開幕前から「ソチ五輪に出場する」と言い続けてきたのも、そう自分に言い聞かせることで逃げ場をなくし、自身を奮い立たせる意味があったのだろう。昨年12月に行われたGPファイナルではSPでミスを犯し、最下位に沈んだ。前年に惨敗を喫した悪夢が一瞬よぎったものの、「僕は同じ失敗を2度は繰り返さない」と語ると、翌日のFSでは巻き返しに成功し4位に浮上。代表選考の全日本選手権では「出場権を勝ち取るのは僕だと信じています」と話し、その言葉通りにソチ五輪の切符をつかみ取った。

 個人戦FSのタイトルは『火の鳥 大飛翔編』。今季は必ず有言実行してきた町田だからこそ、「聖火とともに宇宙にまで飛び立てるような」演技を見せてくれることを期待せずにはいられない。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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