残念なコース、足りなかった角野の経験=スノーボード専門誌・編集長が解説

角野はいつもと違うコースに苦戦。予選での失敗からよく立て直したが、本領を発揮するには至らなかった 【Getty Images】

 ソチ冬季五輪のスノーボード男子スロープスタイル決勝が8日(現地時間)、当地のロザ・フトル・エクストリーム・パークで行われ、準決勝を4位で通過した角野友基(日産X―TRAIL)は、1本目に53.00点、2本目に75.75点を記録し、2本目の得点が自身のベストスコアとなり8位入賞を果たした。五輪初出場となる17歳の角野は試合後、メダルを逃すも「悔いはない。やりきりました」とキッパリ。「この舞台で自分の滑りができたことがうれしい」と話した。
 そんな角野の滑りを、専門家はどのように見たのか。危険、難しいと指摘されたコースに対応できたのか。スノーボード専門誌『トランスワールド・スノーボーディング・ジャパン』の野上大介編集長に聞いた。

X-Gamesとは大きく違う難コース

 まず、今大会のコースに触れないわけにいきません。世界各国のスノーボード界で物議を醸していますから。X-GamesやUSオープンというスノーボード連盟が運営している大会と、今回のスキー連盟が運営している大会では、大きな差が出てしまいました。アイテム(ジブやジャンプ台)のセットアップがだいぶ違うのです。現在のスノーボードのジャンプシーンでは、ジャンプの飛距離、高さが大きくなっているので、着地を“受ける”ようにセットされています。ジャンプ台の飛び出しは緩やかに上がるようになっていて、着地はソフトに受けられるように設定されているんです。

 ところが、今回のソチのコースは予選前、飛び出し口がそり立つように上がっていたようで、着地面の起点となる位置が低いため、高く跳ぶほど急激に落下するようなセットになっていました。これを見て、スノーボード界のスーパースター、ショーン・ホワイトが「とても危険だ」と言ったんです。その後、ライダーズ(選手)ミーティングを重ねた結果、飛び出し口を若干寝かせて本番を迎えることになりました。ただ最終的には、飛び出しの角度と着地面とのバランスが悪くなってしまいました。その影響から、転倒者が続出していたのでしょう。

 こうした前提を踏まえて、角野くんの滑りを振り返ると、予選は確かにジャンプが全然合っていませんでした。彼は高くて見栄えのいいジャンプをするんですが、今回のジャンプ台だと、ちょっとリスクが高くなって最初は合わせられなかったんだと思います。それで準決勝は技の組み立てを変えてきました。1本目は彼からすれば少し難易度をおさえた構成でした。キャブダブルコーク1260(3回転半)から入って、次は縦軸が浅めのフロントサイドのダブルコーク1080(3回転)、最後はバックサイド1260(3回転半)です。これは前半のジブセクションから含めて、つなぎ、完成度ともに高かった。でも技の難易度からすると、84.75点というのは妥当ですね。その1本目で保険をかけられたので、2本目は最後のジャンプを変えてバックサイドトリプルコーク1440(4回転)でした。ただ、板は回りきったんですが、上半身が少し遅れたので、着地で手をついて点数が伸びませんでした。

経験を積んで対応力つければ4年後……

 角野くんは予選のときから2台目のジャンプ台で苦戦していました。これは推測ですが、3台目が大技を繰り出せるジャンプ台なので、その前はスピードが落とせません。なので、少し勢いあまっていたのかもしません。決勝の2本目、2台目で見せたフロントサイド1080(3回転)は、角野くんにとってそれほど難しい技ではないんですが、スピードを意識したからか、落差が大きかったですね。衝撃の強さと回転の遠心力で、手をついてしまいました。最後のバックサイドトリプルコーク1440(4回転半)はしっかり決めたんですけどね。

 これはコースのアイテムの間隔が狭いことが考えられます。条件は全員一緒なので、角野くんに限ったことではないですが、転倒するライダーが多かったことがその証しです。表向きには難しいコースとなっていますが、スノーボード的にはいいコースとは言えません。予選前には「世界最高峰の舞台なのに残念すぎる」と海外ライダーも言ってました。

 それらも含め、今回の角野くんは経験不足が出てしまったかなと。彼が今まで出場してきたX-GamesやAIR&STYLEなどはきれいにセットアップされており、そこで結果を出してきました。スノーボードをよく理解している人たちが作っているコースですね。しかし、今回のようなコースへの対応力がちょっと足りませんでした。それでも予選の失敗を受けて、準決勝ではよく調整してきましたね。

 もうひとつ、今回はジャッジも不安定でした。マーク・マクモリス(カナダ)やピート・ピロイネン(フィンランド)の点数が低すぎたこと。また、最後に滑ったマックス・パロット(カナダ)のジャンプはとてもスゴイんですよ。バックサイドトリプルコーク1620(4回転半)という大技で、世界でも2、3人しかできません。それを完璧に決めたのに……。前半で若干のミスはありましたが、個人的にはメダルに絡んでもおかしくないと思ったくらいです。ちなみに、そのパロットが繰り出した技は角野くんもできますからね。そう考えると、もっとやれたかなと。今回のコースでは、彼のいいところはすべて発揮できなかったと思います。「悔いはない」と言っていましたが、本音は違うのではないでしょうか。

 今後の課題は、経験を積んで、対応力をつけていくことでしょう。現在持っている実力を、コースや状況に応じて発揮できれば、メダルも視野に入ってくるという手応えはつかめたと思います。今回出場した選手の中でも下から2番目に若く、4年後もまだ21歳です。期待したいですね。

<了>

■編集長 野上大介プロフィール
1974年生まれ、千葉県松戸市出身。スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN(トランスワールド・スノーボーディング・ジャパン)」編集長。大学卒業後、全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ部門に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。その後、アウトドア関連の老舗出版社を経て、現在に至る。編集長として8年目。今年開催された、アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。フェイスブック(www.facebook.com/dainogami)やツイッター(@daisuke_nogami)でも情報を発信している。
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著者プロフィール

TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN/世界最多の発行部数を誇るスノーボード専門誌の日本版として1994年に創刊し、今季で20年目のシーズンを迎える。多くのスノーボーダーが求める情報を掘り下げるべく、“「上手く」「楽しく」「カッコよく」滑るための一冊”というスローガンのもと、9〜4月まで年間8冊に渡って毎月6日に発刊。国内のスノーボード専門誌において圧倒的な読者数を抱える。また増刊として、ギアカタログ誌「SNOWboarder’s BIBLE(スノーボーダーズ・バイブル)」(7月発刊)、女性スノーボード誌「SNOWGIRL(スノーガール)」(10月発刊)、トリックハウツー誌「B SNOWBOARDING(ビー・スノーボーディング)」(11月発刊)をラインナップし、老若男女問わず、多くのスノーボード愛好家より支持されている。

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