残念なコース、足りなかった角野の経験=スノーボード専門誌・編集長が解説
角野はいつもと違うコースに苦戦。予選での失敗からよく立て直したが、本領を発揮するには至らなかった 【Getty Images】
そんな角野の滑りを、専門家はどのように見たのか。危険、難しいと指摘されたコースに対応できたのか。スノーボード専門誌『トランスワールド・スノーボーディング・ジャパン』の野上大介編集長に聞いた。
X-Gamesとは大きく違う難コース
ところが、今回のソチのコースは予選前、飛び出し口がそり立つように上がっていたようで、着地面の起点となる位置が低いため、高く跳ぶほど急激に落下するようなセットになっていました。これを見て、スノーボード界のスーパースター、ショーン・ホワイトが「とても危険だ」と言ったんです。その後、ライダーズ(選手)ミーティングを重ねた結果、飛び出し口を若干寝かせて本番を迎えることになりました。ただ最終的には、飛び出しの角度と着地面とのバランスが悪くなってしまいました。その影響から、転倒者が続出していたのでしょう。
こうした前提を踏まえて、角野くんの滑りを振り返ると、予選は確かにジャンプが全然合っていませんでした。彼は高くて見栄えのいいジャンプをするんですが、今回のジャンプ台だと、ちょっとリスクが高くなって最初は合わせられなかったんだと思います。それで準決勝は技の組み立てを変えてきました。1本目は彼からすれば少し難易度をおさえた構成でした。キャブダブルコーク1260(3回転半)から入って、次は縦軸が浅めのフロントサイドのダブルコーク1080(3回転)、最後はバックサイド1260(3回転半)です。これは前半のジブセクションから含めて、つなぎ、完成度ともに高かった。でも技の難易度からすると、84.75点というのは妥当ですね。その1本目で保険をかけられたので、2本目は最後のジャンプを変えてバックサイドトリプルコーク1440(4回転)でした。ただ、板は回りきったんですが、上半身が少し遅れたので、着地で手をついて点数が伸びませんでした。
経験を積んで対応力つければ4年後……
これはコースのアイテムの間隔が狭いことが考えられます。条件は全員一緒なので、角野くんに限ったことではないですが、転倒するライダーが多かったことがその証しです。表向きには難しいコースとなっていますが、スノーボード的にはいいコースとは言えません。予選前には「世界最高峰の舞台なのに残念すぎる」と海外ライダーも言ってました。
それらも含め、今回の角野くんは経験不足が出てしまったかなと。彼が今まで出場してきたX-GamesやAIR&STYLEなどはきれいにセットアップされており、そこで結果を出してきました。スノーボードをよく理解している人たちが作っているコースですね。しかし、今回のようなコースへの対応力がちょっと足りませんでした。それでも予選の失敗を受けて、準決勝ではよく調整してきましたね。
もうひとつ、今回はジャッジも不安定でした。マーク・マクモリス(カナダ)やピート・ピロイネン(フィンランド)の点数が低すぎたこと。また、最後に滑ったマックス・パロット(カナダ)のジャンプはとてもスゴイんですよ。バックサイドトリプルコーク1620(4回転半)という大技で、世界でも2、3人しかできません。それを完璧に決めたのに……。前半で若干のミスはありましたが、個人的にはメダルに絡んでもおかしくないと思ったくらいです。ちなみに、そのパロットが繰り出した技は角野くんもできますからね。そう考えると、もっとやれたかなと。今回のコースでは、彼のいいところはすべて発揮できなかったと思います。「悔いはない」と言っていましたが、本音は違うのではないでしょうか。
今後の課題は、経験を積んで、対応力をつけていくことでしょう。現在持っている実力を、コースや状況に応じて発揮できれば、メダルも視野に入ってくるという手応えはつかめたと思います。今回出場した選手の中でも下から2番目に若く、4年後もまだ21歳です。期待したいですね。
<了>
■編集長 野上大介プロフィール
1974年生まれ、千葉県松戸市出身。スノーボード専門誌「TRANSWORLD SNOWboarding JAPAN(トランスワールド・スノーボーディング・ジャパン)」編集長。大学卒業後、全日本スノーボード選手権大会ハーフパイプ部門に2度出場するなど、複数ブランドとの契約ライダーとして活動していたが、ケガを契機に引退。その後、アウトドア関連の老舗出版社を経て、現在に至る。編集長として8年目。今年開催された、アクション&アドベンチャースポーツのインターナショナル・フォト・コンペティション「Red Bull Illume Image Quest 2013」の日本代表審査員。フェイスブック(www.facebook.com/dainogami)やツイッター(@daisuke_nogami)でも情報を発信している。
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