帝京大5連覇を支えた無名選手の物語 「愚痴ばかり」から変化した牧田旦
「食事係長」になって生まれた変化
穏やかな笑顔で大学生活を振り返った 【CSPark】
毎日の食事の配膳であったり、片付けをする係ですね。練習終わりが18時30分ごろで、そこから帰って、19時から22時くらいまで食堂に居続けるんです。みんなにご飯を提供して、食べ終わった後に清掃して……という流れです。
この役職は、時間と労力が奪われる仕事なので、みんなやりたがらないんですよね。立候補する人が出てこなかったので、ちょっと正義感を出して自分がやることにしました(笑)。
――その役職に就いて変化はありましたか?
自分の一番弱いところ、さっきも言ったような、すぐに愚痴を言ってしまったり、投げ出したりしてしまうことがなくなりました。ネガティブな部分が抜けたと思います。
練習後にみんなが疲れて食堂に来たときに、自分も疲れた顔をしているのと、笑顔で迎えるのでは全然違うと思います。そこでみんなが元気になれるように、自分から努力していった結果、愚痴を言うことや「面倒くさい」と思う感情がなくなりました。本当にこの仕事をやって良かったと思います。
――4年生の9月にレギュラーになるまでを振り返ってみると、いかがでしたか?
4年生になる前の3月に「最後の国立競技場のピッチに立つ」とノートに書いていました。4年生としての自覚と責任を持って日々の練習に取り組めたから、それを実現できたのではないかなとは思っています。
「リザーブ組を全員出そう」という思い
大学選手権決勝でこぼれ球に飛び込む牧田(右)。献身的なプレーが光った 【矢崎佐代子】
本当に、楽しかったですね。ノートに書いていた「決勝まで行く」というプロセスを楽しめました。それで、最終的に優勝できました。
――決勝戦の後半28分、早稲田大に5点差まで追い上げられた際に、途中出場の4年生、野田滉貴選手を握手と笑顔で迎えましたが?
5点差に迫られたということでピンチかと思われますし、実際そうでした。ただ、仲間内でよく言うのが「自分たちの得意としている競り際の試合を楽しもう」ということ。その点差になった時も楽しむことしか考えていませんでした。
その時にちょうど野田が入ってきて。僕らとしては、後半の最初の方に点差を広げた際に「リザーブ組を全員出してあげよう」という思いでやっていたんです。ただ、そこから5点差まで詰められてしまって……。
「出してあげたい」という気持ちが大きかったので、野田が入ってきてくれたのが純粋にうれしかったんですよね。あとは一緒にプレーすることが少なかったからというのもあります。僕はずっと下(のチーム)にいたので、同じピッチで一緒に試合することはあまりなくて。その喜びが大きかったですね。
「支えてくれた方に恩を返せるように」
最初は、ラグビーはクラブチームにして、社業をメインでやっていこうと考えていました。ただ、そう決めていたところでトップリーグのクラブ(リコー)からお話をいただいたので、行くことに決めました。
かなり悩みました。もともと最初は、トップリーグや(下部リーグの)トップイーストのレベルでやりたいという思いがあったんですけど、自分が就活しているときのチームの位置が低かったので、厳しいかなと。そこで今後の人生を考えた上で、社業を優先できる企業に行きたいと思っていました。そういう人生のルートを決めたときに話をいただいたので……。
――今後の目標は?
本当に、与えられたチャンスをしっかり生かしてやっていきたいというのはまずあります。これまで支えてきてもらってばかりだったので、これからは試合の中でも企業の中でも今までの恩を返せるように、自立した社会人として生きていきたいと思っています。
――最後に、今はまだ試合に出られない下級生や、無名校でもラグビーを頑張っている高校生へメッセージをお願いします。
僕自身もそうだったんですけど、ネガティブな考えや発言などが与える影響は大きいです。なので、自分のプラスな部分をうまく利用して、ポジティブに自分を磨いていってほしいですね。そしてその中で、支えてもらった環境や周りの方々への感謝を忘れずに競技に励んでほしいです。
<了>
大学スポーツ総合サイトCSPark
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