偉大なる本田先輩越えを目指す星稜の挑戦=名将・河崎護監督の個性を伸ばす育成術

安藤隆人

かつては本田にも同様の指導を実施

本田圭佑(左)も河崎監督の指導を受けた選手の1人。星稜での3年間は無くてはならないものだったと振り返る 【写真:川窪隆一/アフロスポーツ】

 河崎監督は選手の個性を見抜き、持っているストロングポイントを最大限に引き出す育成術に長けている。それはこれまで星稜が輩出してきた偉大な選手たちにも当てはまる。河崎監督が育てた選手の代表格といえば、FW豊田陽平(サガン鳥栖)、DF鈴木大輔(柏レイソル)、そしてMF本田圭佑(ミラン)という日本代表にも選出される選手たちだ。

 豊田に関しては、高校時代から屈強なフィジカルを持ちながらも、スピードに長けた選手であった。故に河崎監督は彼を単なるポストプレーヤーに固定せず、前線を自在に動き回る『ムービングストライカー』の役割を与え、豊富なフィニッシュワークを身につけさせた。鈴木に関しては、彼の高いディフェンス能力に加え、正確な縦パスを入れることができる戦術眼とキックの正確性を買って、最終ラインから積極的に攻撃の起点として組み立てる役割を与えていた。

 そして、本田に関しては、入学当初から強烈な個性を発揮していた。一つ間違えれば、完全にチームから浮いてしまうような存在だったが、河崎監督は「彼は発言こそ生意気かもしれないが、芯がしっかりしているし、左足という絶対的な武器を持っていた。彼の個性を消さないようにすることを意識した」と、彼の自主性や才能を尊重しながら、チームとして機能するように微調整を行った。

 さらに、本田が3年生になるとキャプテンに任命。ボランチで起用していたが、ボランチのポジションにはこだわらず、左サイドを中心に、バイタルエリアまで広範囲を自由にプレーさせるような戦術を採用。本田に責任感と自らの能力をフルに発揮できる場所を与えた。それに対し本田は、「河崎先生には本当に感謝している。自分のやりたいようにやらせてくれたし、しっかりと人間的にも鍛えてくれた。星稜での3年間は自分にとって、無くてはならないものだった」と振り返っているように、今の彼のベースとなっていることは間違いない。

『3度目の正直』で国立初勝利を狙う

 この本田のエピソードから、河崎監督の寺村に対するアプローチも、本田に対するそれに似ていることが分かるだろう。強烈な個性を持つ選手に対し、その個性を消さないようノビノビとプレーをさせながら、責任を与えて人間的にも鍛錬させている。

 玉野光南戦後、鈴木は「PK戦に勝った直後に、寺村さんが『浮かれるな。俺たちの目指すところはもっと先にあるんだぞ!』と言ってくれた。これですぐに気を引き締めることができた」と語っている。寺村の成長、存在が今の星稜というチームを一つにまとめあげる大きな要因となっている。

 本田がキャプテンだった2004年度の第83回大会で、星稜は石川県勢初となるベスト4に進出した。だが、本田を擁するチームをもってしても、ベスト4の壁を破ることはできなかった。昨年は2度目の国立に挑んだものの、またもベスト4の壁を破ることはできなかった。

 今年のチームに課せられた使命は、『3度目の正直』を果たすことだ。

 本田は、今年からミランの10番を背負う。赤と黒の伝統的なユニフォームを身にまとい、世界の大舞台で躍動する先輩の姿を見て、新たに河崎監督のもとを訪れる才能たちは増えるだろう。しかし、寺村をはじめとした選手たちは『星稜は本田先輩だけじゃないことを示したい』、『新たな歴史を刻みたい』と、モチベーションが高い。

『歴史を塗り替えた代』として、星稜サッカー部の歴史に名前を残すため、そして、偉大なる先輩の門出を祝うため。星稜は名将・河崎監督の下、チーム一丸となって、まずは5日の準々決勝で修徳(東京A)に挑む。

<了>

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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