箱根駅伝Vの東洋大を変えた最後の2カ月=学年の垣根を越えて深まった“絆”

石井安里

“箱根メンバー外”の4年生が大きな力に

サポートしてくれた仲間への感謝を口にしたアンカーの大津 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 さらに、東洋大のチーム力の象徴が4年生のサポートだ。2年前に総合優勝した時は、箱根駅伝のメンバーから外れた長距離選手だけでなく、短距離と競歩の部員も含めた4年生全員が一体となって、チームを引っ張った。昨年度も、11月からサポートに回った4年生が、寮内や、選手たちがジョグのコースとして使用するキャンパス内の清掃に奔走し、選手が競技に打ち込める環境を作った。

 今季は副キャプテンと寮長を兼任する小池寛明、郷裕貴が自身の競技生活を終了した後にマネジャー役を買って出たほか、メンバーから外れた4年生たちも、箱根駅伝当日は給水を担当した。

 前回、5区で日本体育大と早稲田大に逆転を許した定方俊樹は、今大会を走ることができなかった。しかし、往路は前回走った5区・大平台の給水地点で、設楽啓太に大きな声をかけ、復路は同じ九州出身で、下級生のころから切磋琢磨(せっさたくま)してきた10区・大津の給水を志願。「自分が走れなくて複雑な気持ちだったけど、顕杜を迎えたかった」と、15キロ付近での給水を終えると、フィニッシュの大手町へ急ぎ、涙を浮かべながら大津を迎えた。

 大会前、大津は仲間たちのことを「箱根を走れずに悔しい思いをしているはずなのに、前向きにサポートしてくれるのが心強い」と話していた。真剣にサポートしてくれる仲間がいるからこそ、選ばれた選手が頑張れる。この4年生のサポートも、東洋大の良き伝統になりつつある。

下級生が台頭 バランスの良いチームに

 2年前は、柏原ら強力な4年生がリーダーシップを発揮したことは間違いないが、今年度の全日本の敗戦後、箱根駅伝までの2カ月で変わったのは、下級生たちだった。3年生以下の6人がメンバー入りし、うち5人が区間賞を獲得。彼らの成長がなければ、あの大会記録は生まれなかっただろう。

 今季は夏まで、下級生や中堅クラスで新たに台頭する選手が少ないのが課題だった。2年生では服部勇のみが主軸として活躍。1年生も服部弾が出雲に出場しただけだった。ところが今回の箱根では、服部兄弟のほかにも、上村が復路のエース区間9区で4位と好走。2年生の寺内将人、1年生の成瀬雅俊もエントリーメンバーに選ばれた。彼らの成長で、より選手層が厚くなり、底上げにもつながった。これまで、30人を超える1・2年生の代表格として引っ張ってきた服部勇も「1人で押し上げていくのは大変だったけど、この2カ月は、上村と寺内と3人で頑張ろうという気持ちでやってこられた。2人には感謝しています」とうれしそうに話した。

 上級生と下級生が見事に融合したことで、バランスの良いチームが出来上がり、一体感が生まれた。たった2カ月でも、ここまで変わることができる。学生の秘める、底知れないパワーを見た大会だった。

<了>

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著者プロフィール

静岡県出身。東洋大学社会学部在学中から、陸上競技専門誌に執筆を始める。卒業後8年間、大学勤務の傍ら陸上競技の執筆活動を続けた後、フリーライターに。中学生から社会人まで各世代の選手の取材、記録・データ関係記事を執筆。著書に『魂の走り』(埼玉新聞社)

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