抽選終え、「W杯へのスタートライン」に=取材現場から見たグループCの表情

宇都宮徹壱

日本以外にとっても「悪くない組み合わせ」?

ファイナルドローの会場。イベント開始は13時だが、あえて夜を感じさせる暗さに設定されている 【宇都宮徹壱】

 来年のワールドカップ(W杯)の組み合わせを決める、ファイナルドローのイベントが終了して会場から出ると、容赦ない真夏の光にさらされて思わず顔をしかめた。夜から昼へ、あるいは幻想から現実へ、一気に引き戻されたような感覚――。今回のファイナルドローの会場は、バイーア州にある巨大リゾート地「コスタ・ド・サウイペ」に、巨大な仮設テントを作って行われた。スタートは現地時間の13時だったが、あえて夜の雰囲気を出すために場内の照明は暗く設定されていた。おそらく、ヨーロッパのテレビ視聴者を意識しての演出だったのだろう。すべてのプログラムが終わり、外の光に網膜がなじんでゆくにつれて、ようやく日本の対戦相手のことを冷静に考えることができた。

 今回、日本が組み込まれたのはグループC。FIFA(国際サッカー連盟)ランキング(11月28日付)順に並べると、コロンビア(4位)、ギリシャ(12位)、コートジボワール(17位)、そして日本(48位)という顔ぶれである。日本では「悪くない組み合わせ」という意見が圧倒的のようだが、それは「どうあがいても勝てそうにないチーム(ドイツやスペイン、アルゼンチン、ブラジルなど)との対戦を避けられた」という意味にすぎない。

 コロンビアは南米予選を2位でフィニッシュして、16年ぶりの本大会出場に士気も高い。しかもチームを率いるのは、アルゼンチンの名将ホセ・ペケルマンである。ギリシャは、2004年のユーロ(欧州選手権)で優勝して以降、コンスタントに国際大会で活躍するようになって今に至っている。そしてコートジボワールは、アフリカ勢ではランキングトップ。今回がW杯3大会連続出場となり、着実に実績を積み上げてきている。そうして考えると、日本以外の3チームもまた、「悪くない組み合わせだ」と思っていることだろう。

 それでも日本にとって、組み合わせの順番が良かったこと(相性のいいアフリカ勢と初戦で戦える)、そして3会場の移動距離と気候に極端なギャップがなかったことは、極めてポジティブにとらえることができる。試合会場のレシフェ、ナタール、そしてクイアバは、いずれも30度以上の暑さが想定されるが(内陸部のクイアバは暑さの質が異なるようだが)、暑熱対策を十分に施して万全のコンディションで試合に臨めれば、それなりに勝機は期待できそうだ。逆に、06年のドイツ大会のように初戦で敗れてしまうと、その時点でプランが総崩れになる可能性は高い。まずは初戦で勝ち点を確保すること。そのためにも、コンディショニングとスカウティングには細心の注意を払ってほしいところである。

ミックスゾーンでの指揮官たちの表情

コロンビア代表のペケルマン監督。南米のメディアの質問に、ボソボソとした口調で答えていた 【宇都宮徹壱】

 ファイナルドローのイベント終了後、ミックスゾーンに移動。各グループごとにゾーンが分けられており、グループCと表示された付近でアルベルト・ザッケローニ監督が出てくるのを待つことにする。ふと見ると、グループHのゾーンで、韓国代表のホン・ミョンボ監督がメディア対応している姿が目に入った。韓国は、ベルギー、アルジェリア、そしてロシアと「比較的楽なグループに入った」と言われているが、ホン・ミョンボの表情は決して明るくない。代表監督として初めて臨むW杯に、むしろ相当の重圧を感じている様子だ。

 そんな「お隣さん」に比べると、ザッケローニ監督は初めてのW杯とは思えないくらい、実に淡々としていた。組み合わせについては「こんなものかな」、暑熱対策については「これから考える」、キーワードは「コンディション、勇気を持って仕掛けること、あとはインテンシティー」といった具合。キャッチーな見出しに使えそうな発言は、ほとんどなかった。本大会までの半年は、決して奇をてらうことなく、これまで積み上げてきたチームのベースに磨きをかける。そんな指揮官の密やかな決意を見る思いがした。

 一方、他の3チームの監督は、まさに三者三様であった。ギリシャ代表のポルトガル人監督、フェルナンド・サントスはクセのある英語で「日本にはいい選手がいてスピードがある、非常に強いチームという印象だ。あなたたちのチームを私は非常にリスペクトしている」とリップサービスぶりを発揮。コロンビア代表監督のペケルマンは、ずっとスペイン語でボソボソと何かしゃべっている。あとでスペイン語が分かる人に聞いたら、「とてもレベルが均衡したグループで、コロンビアにとって良かった」と語っていたようだ。

 よく分からなかったのが、コートジボワール代表のフランス人監督、サブリ・ラムシ。クロアチア代表監督のニコ・コバチと並んで、今大会の最年少監督(42歳)だが、にこやかにミックスゾーンに現れていくつかの質問にフランス語で応じると、「もういいいよね?」とばかりに引っ込んでしまった。メディア対応に熱心ではないというよりも、単にコートジボワールのメディアが少なかったのだろう。これから本大会にかけて、日本の各メディアが対戦相手の素顔を探るコンテンツを制作することになるだろうが、情報集めに最も苦労しそうなのは、実はこのコートジボワールのような気がする。

 かくして、日本のグループリーグ3試合は、6月14日(現地時間、以下同)vs.コートジボワール(@レシフェ)、19日vs.ギリシャ(@ナタール)、24日vs.コロンビア(@クイアバ)と決まった(何とグループリーグの日程は、前回の南アフリカ大会とまったく同じ!)。一通り作業を終えてから、さっそく日本戦の会場のホテルを押さえ、前後の取材カードを吟味する。今大会は、我々取材者にとっても移動が大変だ。ガイドブックのブラジルの地図と、刷り上がったばかりの大会日程を見比べながら、来年6月のスケジュールをどんどん埋めていく。こうして取材プランを組み立てていくのが、実は一番楽しい。ファイナルドローが行われた、今日この日こそが「W杯へのスタートライン」。ならば日本代表がそうであるように、我々もしっかり準備をして、来るべき本番に備えようではないか!

<了>
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント